生まれて初めてできたコネに頼って来た場所は、ツナの想像とは少し違った場所だった。



「バイトがしたい!」
なんとか…ひいひい言いながらも中学を卒業し、駄目な頭のレベルでギリギリ入れる高校に前期で落ち後期で補欠入学したツナは、処々に悩まされながらもそう言った。
折しも季節はやっと通り過ぎた5月病を越し、夏休みの時期に突入していた。
そもそものキッカケは、リボーンが2週間ほどイタリアで仕事をしてくると言ったからであった。
中学一年生の夏に差し掛かろうとしていた時期に沢田家にやってきた家庭教師のリボーンは、そりゃあ精力的にツナをびしばしと鍛えてくれた。
来るべきボンゴレ10代目就任の日がいつかは知らないが、それにむけて恥じないようにと良い表現をすると気づかい、悪い表現をするとしごきをしてくれたのだ。
リボーンの教育方針には未だに首をかしげたくなるようなことも多いが、それでもそんな仕草を見せたら黒くて銀色に光る音速の危険物が飛んでくるから面と向かっては言わない。
ともかくだ、そんなリボーンが珍しくイタリアに戻ると言ったのだ。
凄い。革命的だ。奇跡的なのだ。
ツナは今までそんなことをわざわざリボーンから言われたことはない。
中学生時代は勝手にいなくなったり、勝手に帰ってきたり、そんな短い繰り返しを何度かしていたから、それが当たり前だったのだ。
自分も無事に(滑り込みだが)高校生になったことだし、やっと少し重い家庭教師業からつかの間とはいえ解放してくれるのかと喜んだ。
2週間だなんて、もちろん初めてな長期間だ。
これは、チャンスだと内心のガッツポーズと単純な計画がツナの頭を巡った。
時は高校生。しつこいようだが、花の高校生なのだ。
遊びたい。遊びたい。遊びたい。
と、平均的高校生のとおり、ツナの頭はそれを占めていた。
ついでに、漫画も読みたいし、ゲームもしたいし、CDも聞きたい。
だが、先立つ物がない…これが悲しき高校生の現実だった。
つまり、ノーマネー。
悲しいほどにお小遣い制度が採用されている沢田家に属している身では、世間様よりツナの羽振りは果てしなく悪かった。
大黒柱である家光は、一応イタリア最強のマフィアらしい…ボンゴレファミリーの門外顧問だよな?と何度疑ったかはわからない。
奈々はそれを知らないわけだが、沢田家にはツナの他にもリボーンやらランボやらビアンキやらイーピンやらフウ太やらの居候がいるわけで、一体いくら家光が仕送りはしているかわからないけど、ツナのお小遣いがそれほど裕福にないのがわかる現状があった。
というわけで、お金を得るためにアルバイトをしたいというツナの願望はとても自然な物であった。

「かまわねぇぞ。」
半分びくびくしながら提案したそれを、リボーンは意外とあっさり認めた。
いや、むしろ…にやりと笑ったぞ。不敵だ。
「え…ホントにいいの?」
拍子抜けしながらも、ツナは改めての確認の言葉を出した。
本当に確認しておかないと、オレはそんなこと言ってねーぞとか言い出すかもしれないから、念には念を入れる勢いだった。
だって、アルバイトなんて絶対反対されると思っていた。
そんな時間あるなら、勉強しろ。そんな余裕あるなら、身体を鍛えろ。以下果てしなく同文。
3年も付き合っているとだいたいわかるから、そんな言葉を予想していたのだ。
「最初で最後の社会勉強ぐらいしといた方が、将来ちったぁ部下の気持ちもわかるようになるだろう。それに、高校卒業したらイタリアで素晴らしいマフィアのボス生活が待っているから、今のうちに出来ることはやらねぇとな。」
世間知らずなツナを呆れるように、しっかりと理由を述べてくれる。
こころなしか、素晴らしいという部分を誇張するようにリボーンは言った気がする。
全然素晴らしいように聞こえないのは、何故だろうか。
「あーじゃあ、頑張るよ…」
やっぱり嫌な裏があったのだなと、ツナはがっくし肩を落とした。
まあ将来のことを今、考えるのはやめておこう。
今までもじわじわと遠まわしに言われて来たけど、どうやらツナの未来は一本の道から外すことは許されないらしい。

「まぁ、本当にバイトが出来ればの話だがな。」
そう言われた意味をツナが本当の意味で知るのは少し後になる。











今日もツナは鳴らない電話の前で待ち続けていた。
普段はうるさいので持ってきていない子機を、ここ数日は決まって2階のツナの部屋に置いておいたのだ。
見上げる壁には余計なポスターなど貼ってはおらず、視界に入るのは時計のみである。
カチリッと言い渡された時間である、午後6時を時計の針が過ぎてしまった。
「はぁ〜〜〜」
誰もいないことをいいことに、ツナは盛大に溜息をついた。
めでたくもない、おめでとう。
今この瞬間に見事、10件目の不採用決定をしたのであった。
どうするんだと考える今日の日付は、8月6日。
明日からリボーンがイタリアに経つことになっているというのに、ツナはさっぱりバイトが見つからないでいた。
いや、見つからないという表現は限りなく間違っている。
見つけたバイトにことごとく落とされているというのが一番正しい表現であろう。
この不況の最中に、2週間だけの短期のバイトなんてあるのかなぁと思っていたが、求人チラシを眺めると結構あったりしたのだ。
ツナはまだ若いし男だし、条件に当てはまりそうなバイト先は結構あった。
チラシ配りとか工場のラインとか宅配便の仕分けとか、諸々と探せばきりがなかったりする。
それなのに全部落ちたのだ、情けないにもほどがあってさすがに落ち込む。

「なんだ。やっぱり不採用か。」
そうだろうと思っていたという口調でやってきたリボーンの片手には、小ぶりのスーツケースがあった。
もう今日の夜には空港へと向かうので準備が整った様子だった。
「やっぱり…はないだろう。オレだって、頑張ったんだよ。」
「どうせ面接できょどったりしてたんだろ?全く…オレの生徒のくせになさけない。」
その教育が悪いから全然受からないんじゃないかと内心ツナは思ったが、口には出さなかった。
人のせいにするわけにはいかない現状で、もしかしたら高校でさえリボーンがいなかったら受からなかったかも知れないとかそういう感じなのだから。
「で、もう行くの?」
そういえばさっきビアンキもバタバタしていたような気がする。
彼女もリボーンがいなければ日本に用はないらしく、しばらくイタリアに戻るらしいようなことを聞いていた。
「ああ。それとこれをおまえに、だな。」
「何、これ?」
リボーンから渡された小さな紙切れをツナは疑問視しながら開いた。
本当にシンプルな内容で、簡単な地図がそこには描かれていた。
並盛駅近くの、比較的沢田家から徒歩でも行けるほどの近い場所が示されていたが、そこがどこかという具体的な場所はツナはしらなかった。



「お前のバイト先、オレが手配してやったから感謝しろ。」
にやりと笑いながら、自信満々でリボーンは言い放った。
「えー!いつの間に?」
本当にツナは驚いた。
何やら含むような言葉は出されていたが、かれこれバイト先を探して半月の間、そんなことは一言も言われなかったのだから。
つーか、どこかに受かっていて、そっちですでにバイトを始めていたらどうするんだとも思ったが、先ほどのリボーンの言いっぷりでは受かるはずはないと初めから思われていのかもしれなく、それはそれで少々悔しい気もする。
しかし、ありがたいことには変わりなく、初めてリボーン相手に拝みたくなったりした。
「安心しろ。ボンゴレが裏から運営に関わっている会社だから、お前を落とすようなことは絶対にないからな。」
「つまり…コネかよ!」
やっぱりマトモなバイト先じゃなかった。
それになにより裏からっていうのが聞くだけでも黒い要因だ。
確かに話が通っているのであれば一応未来のボス候補であるツナを落とすようなことはないだろう。
しかし、コネというのを発揮するのは初めてかもしれない。
前に山本のお父さんの寿司屋で働いたことはあるが、あの時は食い逃げ代と皿代を弁償するだけで実際に金銭がもらえたということではなかったから。
「コネの何が悪い?オレがお前のところに来てやったのも、コネだぞ。はした金程度もらってもオレは人様の家庭教師なんかしねぇんだからな。」
「あーそうですか。ありがとうございます。」
棒読みでツナはそう返す。
だって、さすが感覚がマヒしているお方のセリフだなとツナは嫌に感心してしまったから。
そもそもツナはリボーンに家庭教師をして下さいとお願いしたことは一度たりともないような気もするのですが、深くは言わないというか、言えない。

「ともかく明日、そこに行って専務に雇って下さいと懇願して来い。後は知らん。」
それだけ言うと用済みだという感じで、リボーンは部屋を出て行こうとする。
「ちょっ、、、一体どんな会社なんだよ!」
そのツナの問いにはもちろん答えてくれなかった。





マフィア関連会社なんて、正直あまり考えたくなかった。
だって、拳銃とか黒いものを運搬する会社ですとかナチュラルに言われたら逃げ出したくなるから。
しかし逃げ出すのはまだ早い。
少なくともリボーンの指定した日に行かなかったら、それこそ逃げる間もなくツナの身に危険が及ぶのだから。
とりあえず、引っぱり出すのは高校の制服。
面接ならば正式な格好は制服となるだろうと検討をつけて、夏休みでも構わず身につけた。
それと、指にはめるのは大空のボンゴレリングであった。
折角継承したのに、首からかけているんじゃボンゴレ時期ボスの自覚がなさすぎる…ということで、リボーンからきつく言われて高校生になった瞬間から指にはめるように言われているものであった。
獄寺君じゃないんだから、高校生で指輪なんてしていたら先生に何言われるかわからないよと反論したら、そんなこと言う教師は居ないから大丈夫だとリボーンに言われた。
本当にどの教師がリングを見ても言ってこなかった。
いや、あれは視線をわざと避けていたような気もする。
またいらぬ圧力をかけたに違いないと、思うけど。
ともかく高校に向かうのと何変わらぬ格好で、ツナはその地図の場所を目指すことになった。











「ここ、だよな?」
距離的には徒歩15分といったところであろうか。
こんな近くにボンゴレ関連の会社があるだなんて、世間ってあなどれない。
そして、怖いと感じたはずなのに、ツナには疑問の声が出た。
紛れもなく地図の場所にあった建物の看板は、某ギフトショップの並盛店と書かれていたから。
たしかこのギフトショップってよくCMとかしていて、全国にチェーン展開いた筈なのだが。
ともかく悩んでいても仕方ないので、中に入って見る。
やっぱり中も普通のギフトショップで、ちょうどお中元の時期に差し掛かっているということで、5000円以上送料無料とか書かれた有名メーカーの洗剤やらタオルやら海苔やらカタログギフトやら色々が綺麗に陳列されていた。
お客もそこそこに見受けられるが、平日の昼間ということで主婦っぽい人たちが中心な為、学生のツナはその場に浮いて見えた。
なんだかいたたまれなくなったし、目的はそれではないので店員さんらしい人を探すと、レジ近くで作業しているスーツ姿の女性を見つけた。
「あの、すみません。沢田綱吉なのですが、専務さんはいますか?」
話は通っているということなので、一応名乗ってツナは尋ねた。
「専務……?あ、はい。おりますよ。こちらは本社ではないので、どうぞあちらにおいで下さい。」
明るい感じで言ってくれた女性は、続く扉を示してくれた。
そのままツナは女性の後に続いて歩く。
どうやら隣の建物に移ったらしく、扉の向こうは意外と無機質な廊下であった。
「こちらで、お待ちください。」
最終的に待つようにと言われた場所は、応接室とかではなかった。
ギフトショップの隣の建物1階のメインフロアの一角にある応接テーブルにツナは座った。

何かが、おかしい。
だって、右を向くと仏壇とか仏像があるのだ。
それも一つや二つではなく、数え切れないほどたくさんだ。
ついでにロウソクやら数珠やら花輪やら、他にもツナが名前を知らないけど、あ…あの時に多分使うような気がする物品が数々売られているのだ。
仏壇って結構な値段がするのだなとか感心している場合でもない。
さきほどのギフトショップとは打って変わり、こっちの販売フロアにはお客が一人もいなかった。
ツナが座っている場所の隣りは従業員たちがたくさんいるらしく、電話の応対や話し声が聞こえる。
意外となごやかというかそれは騒がしいくらいで、少し不釣り合いにも思ったが…
そして何よりの謎はBGMとしてかかっている有線番組だ。
こういう売り場ならば、しめやかな和な音楽が流れていそうなのに、百歩譲ってクラシックでもなく、なぜかJ-POPの声なしのメロディーが流れ続けていた。
なんだかよく分からない場所に通されて、ツナの頭はかなりぐるぐるしてきた。
一体、ここは何なんだ…



「待たせたな、すまない。」
そう言って現われた男性を見たツナは、更にびっくりした。
この人が多分専務さんなのだろう…
でも、でも、まず日本人じゃない。
どこの国かはわからないが、絶対外国の人であった。
人工に染めたのとは違う見事な金髪に見事な橙色の瞳、20代後半と思しき整った顔立ち。
着こなすのは、素人目からでもわかる高そうなブランドのスーツで、しかも様になっているのがさすがだった。
何だろう…ツナはとっても色々なことに突っ込みたくなった。
だって、彼は…

「あ、あの…失礼ですけど、ここはどんなお仕事をしているんですか?」
とりあえず一番最初に出た疑問から潰していかなければ、頭が回らないような気がして、それを尋ねるだけで精いっぱいであった。








「ん?葬祭業だか。」
そして、彼にとても似合わない部類に入る業種名が、口から出てきた。













8月のネコ 1

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