「デーチモ。」
その名を呼ばれたとき、ツナは自分のことだとは漠然としすぎてわからなかった。
それが最初、それほど耳慣れなていない流暢なイタリア語だったせいかもしれない。
「………デーチモ。…デーチモ。……………ボンゴレ]世。」
そこまできちんと呼びかけられた時、はっとしてようやくツナは目覚めた。
目を見開いたと思ったのに、瞳に一番に映ったのは暗闇であった。
ゆらりと浮かぶ自分自身の存在もあやうい世界では、暗い空間に巻き込まれように五感が瞬く間に侵食されていく。
そう、ここは生の世界ではない。
そんな中で、ぱあっと光を放ったのは自身が身に付けている大空のボンゴレリングだった。
この世界をかなり昔にツナは見たことがあって、目の前の人物の名を呼んだ。
「ボンゴレT世?」
過大とも思える装飾椅子に足を組んで鎮座した初代ボンゴレをツナは見上げる。
輝く金の髪に、額とグローブに灯る死ぬ気の炎。
プリーモ、彼一人がそこに居たのだ。
「久しいな、デーチモ。なぜ、自分がここにいるのか、わかるか?」
リングによる試練から継承を受けた時、一度ここに来たことがあった。
その時は力を手に入れたけど、今は……
「オレは…死んだから、ここに来たんですね。」
そうだ、自分は死んだのだった。
志半ばで倒れたと言ってもおかしくないぐらいの状況…ミルフィオーレの糾弾に倒れて息絶えたのだと、ツナはやっと思い出した。
「残念だが、その通りだ。」
静かに長いまつげを落として、プリーモは語った。
デーチモは長きボンゴレの歴史に中、ずっと待っていた存在でもあった。
だからこそ、この最期はあまりに早かった。
「オレもあなたと同じように、大空のリングを継承する者を待つことになるんですか?デーチモとして。」
ここで生きていくとはあまり思えないが、歴代ボンゴレボスの使命みたいなものはツナも理解していた。
その末席に加わり、次の継承者を待つ身となるのだろうかと尋ねる。
「今までは、そうしていた。だが、おまえも知っているだろう?もはや、ボンゴレの血の系譜は途絶えてしまったことを。」
少しだけ寂しそうにプリーモは言った。
自分の子孫が途絶えてしまったことを残念がらない人物はいないであろう。
「ボンゴレは…これからどうなって行くんですか?」
ツナも理解していた。
9代目の甥は3人いたが、1人残らず早々にいなくなってしまった。
そして初代から流れる血を受け継ぐツナ自身も生から遠ざかってしまったのだ。
父である家光は健在であるが、世代を受け継ぐ子供はただ一人も残ってはいない。
ブラッド・オブ・ボンゴレという血の血統による次期ボンゴレボス候補は、もはや誰もいないのだ。
「デーチモ。それを決めるのはおまえだ。ノーノが亡くなって直ぐにおまえはここに来てしまった。まだ、]世として役割は果たしていないのだから。」
ミルフィオーレによりボンゴレ本部が襲撃され9代目ティモッテオが亡くなり、その後日本でもミルフィオーレの交渉に赴いた10代目沢田綱吉亡くなってしまった。
あまりにも早すぎる死にプリーモは心を痛めていた。
「でも、どうやって…」
過去は取り戻せないことをツナは知っている。
もう死んでしまった自分が何か出来るとは考えが及ばなかった。
「血の継承は途絶えた。ならば、魂の継承を促すことになる。
おまえを転生させよう。そして再びボンゴレボスとなり、ファミリーを救って欲しい。」
血の力に縛られないツナ自身の力を信じて、プリーモは提案をした。
そのためにも、彼の存在をずっと待っていたのだから。
「そんなことが…出来るんですか?」
「出来る。おまえが望めばだが。
ちょうどおまえの生前の友人が子を身ごもったそうだ。まだ転生する魂は決まっていない。早くを望むならば、そちらに転生させよう。」
転生なんて言葉、普通の状態ならツナが信じられることではなかった。
でも、たった一つの想いがずっと胸にくすぶっていたから、プリーモから差し出される手を…死ぬ気の炎を、ツナは受け取り返した。
「わかりました。ただし、オレが生まれ変わるとしたら、望む先があります。」
「…わかった。おまえの望むようにしよう。」
そうしてツナはプリーモに希望を述べた。
いつまでも待ち続ける中、後ろ手に広がる大空はなかった。
「あれ、獄寺君?随分久しぶりだよね。」
笹川京子の自宅の一室で、やってきたスーツ姿の獄寺を見た京子は驚くように声をあげる。
突然の訪問者にも関わらず、持ち前の明るさを出したのだ。
「久しぶりに日本に帰って来たら、話を聞いた。これを。」
獄寺の右手に繋がっている物。
ふぁさりと差し出されるのは大ぶりの花束が、場を埋め尽くすかのように大きく広がり京子に向けられた。
それは、白い色を中心とした大抵が淡い色の花々だった。
「うわぁ、綺麗ね。」
「座っていていい。花はこっちにおいておく。」
感嘆の声を上げた後に喜んで京子は椅子から立ち上がろうとしたが、それを制止したのは獄寺だった。
そのままガラステーブルの上に、花束を崩れないように置く。
「もう知られちゃったんだ。お兄ちゃんったら、おしゃべりだなあ。」
くすりと笑うようにしゃべる。
自分が兄である了平に伝えたときは飛び上がるぐらい喜んでいたことが嬉しかったけど、恥ずかしさもあってわざとそう言ってみる。
「10代目が生きておられたら、こう言うだろう。おめでとう。それと、オレからも。」
もう、こんなときにしか見せないぐらいの笑みを獄寺は軽く送った。
本当に10代目が生きていたらどんなに喜んだかわからない。
笹川京子が結婚したのは一年ほど前のことだった。
ゼミに通っている際に交際を始めた一般男性とめでたく結ばれたのだ。
そして今、彼女のお腹の中には愛の結晶が宿っている。
「ありがとう。後で、ツっ君のお墓にもきちんと報告しにいかなくちゃね。大切な友達なんだから。」
京子はツナが亡くなった経緯を詳しくは聞かされておらず、獄寺と同じく兄と同じ職場にいたが、事故でとだけ伝えられた。
その兄もあまり日本にいないので詳しく聞きそびれたのだ。
それでもツナが、中学以来仲よくしている友達に変わりはなかった。
ツナが亡くなって一番変わったのは、目の前にいる獄寺であろう。
少なくとも昔から考えると、自分に対して花束をわざわざもってくるような男ではなかったから。
「そうしてくれると、10代目も喜ぶ。」
「ところで、獄寺君は結婚しないの?私の友達にも獄寺君は格好いいって人気あるんだよ。この年まで独身って意外だよ。」
自分はそんなに晩婚ではなかったが、目の前の彼が未だ独身というのは、世間一般常識的になかなか考えにくいことだった。
はた目から見ても、容姿・知性共に完璧なのだ。
そのあたりの女の子が放っておくわけがないと京子は思っていた。
「…仕事が忙しくて、そこまで頭が回らない。」
言われるように、確かに本当に山のように縁談が舞い込んで来ていた。
しかし、獄寺はそれに対して首を縦に振ることは決してしなかった。
それどころか部屋に迷い込む手紙や写真は積まれたまま、当の本人の目どおりも叶わずにいたのだった。
獄寺とてボンゴレファミリーに連なるものなので最低限必要なパーティーには出席を最初はしていたのだが、違う方面に仕事を移動させていったこの頃ではそれさえも遠ざかっていた。
将来、ボンゴレファミリーの未来に有益となる相手ならば、同盟を組むのに必要だったりして、敵対ファミリーの令嬢と結婚するかもしれない。
そうだとしても、ただ一人のお方しか獄寺の心には入って来ないので、そこに愛はないであろう。
「そっか。お兄ちゃんも忙しくしてるしね。あ、そうだ。獄寺君には言っておこうかな。この子が男の子だったらつけようとした名前。やっぱり獄寺君の時にとっておいた方がいいと思ったんだ。」
彼に怒られちゃうかもとも思ったが、とても小さな生命に京子は軽くふれながら伝えた。
お腹の子は男なのか女なのかもわからないほどのまだ三ヶ月である。
それでももし男の子ならばと、一番に思い立ったひとつの名前は京子だけで決めるものではないけど、使うならば獄寺は許可を得る相手の一人だった。
結局、その名前が一生使われないことになってしまっても。
ふわりと漂う闇の世界で、魂のみになったツナは一生待ち続ける。
たった一つだけ望んだ転生場所が現れ続けるのを
自分自身のせいで、一生再会できる事も知らずに−−−願いが叶うことはない。
彼に出会わない輪廻
ツナの希望した転生場所は獄寺の子供。
でも獄寺はツナのことがあるから子供を作らない。
だから永遠にツナは生まれないので獄寺と会う事は出来ない。という感じです。
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