「ランボ…てめぇ、そんなに死にてぇのか?」
開口一番にランボに向けてそう言ったのは、リボーンであった。
その口調はいつものものだったが、見た目は全然違う成長をした姿。
彼は10年後の世界のリボーンだったのだから。
いつもながらに巻き起こる、ランボの10年バズーカ誤発射の今回の餌食になったのは、不幸にもツナ自身であった。
ランボをけしかけたのは、もちろんツナではないので被害者という形になる。
あれよあれよという間に膨大な煙に巻かれて、どさりと腰から落ちて10年後の世界にやってきてしまった。
広い土の上に落ちたので、生憎ズボンは汚れてしまったが、衝撃がそれほど残るほどでなかったのが唯一の幸いであろう。
そんなツナと一番に目があったのが、10年後のリボーンと思われる人物で、ツナに対してあれこれ言うのかと思いきや、突然隣にいたランボに苛立ちの言葉を上げたのだった。
「なっ、悪いののはオレじゃなくて、10年前のオレなんですけど…」
ダメージを最小限に留めるために逃げ腰になりながらも、びくびくしながらそのランボは言った。
対するリボーンは銃をぶっぱなすのは辛うじてやめたが、でもやっぱり足蹴りをもろにランボに食らわせた。
「つっ!」
ランボは痛みに、涙が目尻に滲む。
しかし、ここで盛大に痛いだなんて訴えたら追撃が恐ろしいので、言葉は飲み込む。
「恨むなら、自分を恨むんだな。」
まるっきり悪役声を出しながらリボーンは言い捨てた。
リボーン自身もランボに八つ当たりしても何も変わらないとわかっていた。
それでも、よりにもよって何故この日この時間この場所でツナがやってきてしまったのかと、苛立ちが収まらない。
「まーまー。過ぎたもんはしょうがないだろ、な?」
そんな二人を止めるように、横から一際長身な男が声を出した。
「ま、まさか…山本なの?」
でかくなるにも程があるだろうと叫びたくなるほど、長身となった山本と思しき人物が居て、ツナはたじろぎながらも名前を呼んでみる。
今自分は土の上に座り込んでいる状態なのだが、あまりに首を上にあげすぎていたいくらいだ。
「よっ!久しぶりだな。」
軽く右手をあげて、挨拶される。
やっぱりいつもの山本で、こういう性格は10年経っても変わらないようだった。
「いい加減、群れるのはやめてくれる?君こそ、死にたいのかな。」
最初は呆気にとられて、前方を呆然と見ることしか出来なかったツナだったが、やっと思考が少しずつ動いてくる。
くぎぎっと硬い首を横にずらすと、腕組みをして大変不機嫌そうな10年後の雲雀がいた。
あまりにびっくりしたので、思わず指で指してしまうところであった。
危ない。本当にそんなことをしたら、10年後だろうが前だろうが、ツナの生命はここで途絶える。
「ヒバリ。戦うならオレと戦え!守護者同士の戦いは止められていたから我慢してきたが、一度お前とは極限に拳を交えてみたかったんだ!!」
熱く雲雀に向かってきたのは、了平で既に戦闘モードに入りつつあった。
「いいよ。」
不適な笑みを見せて雲雀も応戦の意を唱える。
ひとたび取り出すは、お得意のトンファーで、了平の方に身体を向ける。
もう自分の存在なんて眼中にはないらしい。
「小さいボス…可愛い。」
それよりもっとマイペースな声が違う方向から聞こえてきたので、見ると、そこには10年後のクローム髑髏がちょこんと居た。
何なんだ、この状況はとツナは頭を悩ませる。
リボーンはともかくとしても、山本、ランボ、了平、雲雀、クロームとツナの見知ったメンバーが勢ぞろいしている。
ただ、彼らが仲良く集まるなんて構図はツナの中では有り得なかったのだ。
彼らはボンゴレの守護者達だが。
あれ、でも何かが…いや、彼が足りない。居ないのだ。
最後の一人を探すように、ツナは立ち上がって周囲を見回す。
「あっ…」
失礼ながら声をあげたのは、ツナの視界に一人の男が入ったからだ。
ただ、その人は全然知らない人であった。
10年後の彼ではない。
それでも、探している彼はこの場にはいなかった。
リボーンと、ボンゴレ守護者と、知らない人…
目があった瞬間に、彼はツナに対して深々と頭をさげた。
うやうやしくするその動作がとても引っかかったのだ。
じろじろと見ては悪いと思ったが、おじぎをした瞬間にその人物を良く見てみる。
黒いスーツに黒いネクタイ。
これは他の全員も同じなので、怖いがマフィアだから仕方ないと思った。
小奇麗な格好をして、でも髪の色も瞳も全然ツナが求めている人物ではなかった。
それにもし、ツナがこの場に現れたとしたら、うぬぼれではないが一番に騒ぎ立てそうなのにそれもしないから。
キラリッと一瞬の光が目に入る。
それはおじぎをした男性の手からもたらされたものだった。
たまたまの太陽の反射か、それが元から持つ光なのかはわからない。
確かに光ったのだ。
目の前の男性の持つ、指輪…ボンゴレ嵐のリングが光った。
「あれ、それって…」
失礼とかそんなことを考えられずに、見間違える筈がない嵐のリングを指差してツナは声を出した。
なんで…それを持っているのが、彼じゃないんだ?
単純な疑問しか浮かばなかったのだ。
きっと将来、彼は自分の右腕となりたがっていて、そして誇らしげに嵐のリングを示してくれると思っていたんだ。
なのに、違うだなんて?
酷い眩暈が、ツナの頭の中に襲い掛かった。
ふらふらと足元がふらついて、倒れこみそうになる。
湿った土を踏みしめてから、気が付く。
そういえば、ここは外であることには間違いないけど、ここはどこだ?
ボンゴレ守護者が勢ぞろいするには不釣合いそうな場所過ぎて、ツナは後ろでに手を伸ばしてみた。
触れる冷たい石の感触にぶつかる。
正体を確かめようと、後ろを振り向くと待ち受ける物がある。
ああ、みんなは…自分にこれを気が付かせないように、わざとこちらに注意を引かせていたんだ。
思い知った。
獄寺隼人と、綺麗に名が彫られた白い墓の前に、ツナはいたのだった。
ボンゴレ守護者が集まっていたのは、きっと彼の墓参りだからであろう。
そして10年後の自分もそれを受け入れている。
「嘘だよね…獄寺君。」
震える声を出しても、何も変わりはしないのだ。
「お前は、こんなところで油を売っている場合じゃねぇんだ。急げ、ツナ!」
引き釣り上げるように発破をかけてきたのは、リボーンだった。
でも何でそんなことを言われているのかわからなくて、ツナはただ顔を上げるばかりであった。
多分、未来は変わらない。
変わるようなら多分未来の自分が何かをしているのだから。
それでも、前を向くように視界を広げた。
再び向き合うのは獄寺の墓で、思い知れということなのだろうか。
ふと、彫られた石を凝視すると、彼の名以外の記載が見受けられる。
9月9日という彼の生年日と、没日だ。
その没日には痛いくらいの見覚えがあった。
今日だ。
正確にはツナがやってきた10年後の、その日の日付であった。
原因はわからないけど、今日、彼は死ぬ…んだ。
急げとリボーンに言われた理由がようやくわかった。
「…ありがとう、みんな………オレは戻るよ。」
出来れば別れは笑顔で、ツナはそう言った。
今まで10バズーカの5分間なんて短いものだと思っていたツナであったが、これほど長いと思ったことはない。
時間になると、ようやく巻かれる煙。
ツナは過去の世界へと戻っていった。
「オレは何で、あんなことを言ったんだろうな…」
去り行くツナの姿を見送ってから、リボーンは戻ってきたこの世界のツナに対してそう言った。
結局、ツナは間に合わない。
でも獄寺の死に目に会えるだけでも、ツナの心の未来は変わるのかもしれないと、そう思いたかったのだった。
二人目の嵐の守護者
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