初めて降り立ったイタリアの地を踏みしめて、ツナは感慨深く思った。
ここに至るまでに、懐かしいような感じとかするかなとも想像したが実際は良くわからない。
ただ、求められている地だということだけが、おぼろげに感じられた。
一年前の自分から見れば、自ら率先してイタリアに赴くなどということは考えられないことであった。
ツナの当たり前を覆すことがあったからこそ、ここに居るのだ。
「おい。行くぞ。」
割り入ってツナの意識に入ってきたのはリボーンの声であった。
一緒に日本からやってきたのだから当然でもあるのだが、背後から声をかけられると少し身を恐縮する。
ツナにとっては初の海外だから、それくらいの警戒心は持つべきだと出発前に散々言われたせいでもあった。
リボーン自体はまだ赤ん坊なのに入国審査とかどうするんだろうとか微妙に考えていたツナであったが、よく考えれば何度も日本とイタリアを行き来しているし、そもそもマフィアなので深く考えるものじゃないなと思った。
この日のために取った自分自身のパスポートも本物であるが、90日間しかないビザを使って観光目的というわけではない。
「あ、うん。」
ツナが立ち止まっていたのは、まだ出国ゲートを抜けて、フィウミチーノ空港−別名レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港の正面ゲートを抜けたばかりの場所であった。
成田から飛ぶこと直行便で約十三時間の旅の末、ようやくここに来た。
イタリア全土的にみると、緯度的には日本よりやや上に位置するらしいが、それほど気候の違いを感じないのだなと感じた。
ただ、横を通り過ぎる他国籍と思われる人々から発せられる通り過ぎる言語によって、紛れもなくここはイタリアなのだろうと思い当った。
「ったく。いつまでも、ぼさっと突っ立ってんじゃねえ。カモな日本人だとバレるだろーが。」
相当な田舎者というわけでもないのに、おのぼりさんのようにじっと外を見ているツナをリボーンは叱咤した。
折角服装に気を使わせて、ツナにはスーツにダークグレーのネクタイを着させた。
目立つ髪の色の方は日本人特有の黒髪ではないというのに、仕草でもろバレしてどうするんだと、頭が痛い。
「え?そんなに治安悪いのかよ。」
早足気味に先に行ってしまうリボーンを追いかけて歩きながら、ツナは聞く。
「日本人が甘すぎるんだ。この国だけじゃない。他国では女でも子供でも気をつけてるもんだ。」
リボーンは自身の持つ小さなジュラルミンケースを示して、手荷物には特に気をつけるようにと言った。
迫ってくる犯罪者はスリだけではないが、最低限スリぐらいは遠ざけられなかったら、次期ボンゴレ10代目として情けないにも程がある。
本当に狙われるのは命としての可能性の方が高いだろうが。
そのままリボーンは、行きかう人々の人ごみを避けるように、どんどんと進む。
「そうだ、これを渡しておく。」
一般人が行くようなバスや地下鉄やタクシー乗り場から段々と遠ざかり、周囲に人気がなくなったところで、リボーンはぽーんと軽快にツナに向けてある物を投げつけた。
「げっ、、、」
反射的に両手で受け取った物をマジマジと見てから、ツナは嫌な声を出した。
確かに周りに人がいないとはいえ、あまりにも堂々と手渡されるようなものではない。
ツナの手の上には、スイス製の中型拳銃がぽんっと乗っかることになる。
「ここは、日本じゃねえ。もうお前を守るのはお前自身しかいねえって、わかってるよな?」
イタリアに来たからには覚悟は出来ているだろうが、常にリボーンがツナの側に居るわけにもいかない。
リボーンは確かにツナの家庭教師であるが、護衛役でも翻訳係でも何でもないのだから。
咄嗟に所持している死ぬ気丸に頼るとしても、瞬間的な反応は銃の方が早いに決まっていた。
本気を出したツナには負けるだろうが、殺傷能力に特出しているのは間違いない。
「…わかったよ。」
そう呟きながら、ツナはしぶしぶと上着の内ポケットへ銃を収めた。
少しの重さに、ごろごろとする慣れない感じがするのは仕方ない。
日本に居る時から、多少拳銃の取り扱いも修行させられた。
最も、日本では堂々と扱えないので必要最低限程度しか習っていないというのが本音で、本当は持ちたくない。
しかし、イタリアというかマフィアの中では所持しているのが当たり前らしいので、嫌々な気持ちはあり続けた。
まだ空港に着いただけというのに、何だか凄く疲れた。
本当に重い目的はこれ以降にあるので、ツナはとぼとぼと歩くのを止めて背筋を伸ばした。
「Io stavo aspettando.」
リボーンが足を止めたのでツナもそれに倣う。
呼びとめたのは、漆黒の車を隣につけたどす黒いサングラスをかけた強靭な印象の男であり、それは二人に向けられた言葉であった。
続いて、二人相手に頭を下げて来る。
あ、これくらいならツナも何とか聞き取れて理解できる。
今日という日のためにイタリア語を叩きこまれたのだから、これくらいの成果が出ていないとまたリボーンに怒られてしまうだろう。
中学で習い始め途中の英語さえ危ういというのにイタリア語?という感じではあったが、スパルタ教育の賜物であろう。
『お待ちしておりました』と、男は言ったのだ。
彼は、リボーンが手配したボンゴレからの迎えの者のようだ。
「先に後ろに乗れ。」
流れるように自動で開かれた後ろのドアを示して、リボーンは言った。
一応運転席の後ろ側に座るようにと、考慮してやっているこその言葉だ。
「待って、リボーン。これから直ぐに本部に向かうんだよな。」
今のツナが比較的手ぶらで空港へと降りられたのは、日本から送った荷物がボンゴレイタリア本部宛へと届けられているからであった。
正式に移住が決まるまでは近くのホテルで寝泊まりするかもしれないが、結局の行先は決まっているようなものであった。
「ああ、そうだ。」
「ちょっと、オレ、先に行きたいところがあってさ。まだ時間はあるだろ?」
明日に備えて本部でやるべきことがあることは知っていた。
しかし、そこに行ってしまってはもう自由に身動きが取れない気がして、ツナは訴えた。
「………他の守護者より早く現地入りしたいと言ってたのは、それが理由か?」
ツナの言葉を受けて、少し沈黙してからリボーンはくるっと後ろを向いた。
珍しく積極的にイタリアに行きたがる理由を知ってはいたが、止めていたのはリボーン自身であった。
それは一年の事件からずっと言われていたが、望みは却下していた。
ツナの身を守る為には日本に居る方が何かと好都合だった。
イタリアという国では敵と隣り合わせ過ぎて、どうしようもなさすぎる。
しかし、それもうだうだ言っている場合ではなく、必要に迫られてようやく今日来ることになった。
守護者も全員集合という状況で、ツナが他の守護者を差し置いて一番に行くと言い出したのは、最後のわがままであろうと思い立った。
「まあ、いい。リングの件もあるしな。直接車をそっちに向かわせてやる。」
押し黙ってしまったツナを見て、リボーンの方も数少ないことに、妥協をした。
「ありがとう。」
ようやく安心してツナは車へと乗り込んだ。
運転手に言づける流暢なリボーンのイタリア語はさすがにツナには聞き取れなかった。
次いでの口実みたいになってしまうことが、とても残念ではあったが、それでもツナにはイタリアで行きたいところがあった。
それは自らの指にはまった大空のリングとは違う、
大切に胸にしまう嵐のリングへとまつわる、始まりと終わり。
待ち追い人は箱の中 1
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