最終的な目的地にたどり着く前に、途中で立ち寄るように少しだけお願いしたのは、小さな花屋だった。
ツナにとっては全く知らないお店ではあったが、小さな下町のはずれに存在する雰囲気を気に入り、車を止めて待っていてもらった。
そこは恰幅の良い女性が一人で切り盛りしているようで、東洋人のまだ子供にも見えそうなツナを見ても、お客として丁寧に対応してくれたので助かった。
花の種類とか全然詳しくなかったツナであったが、つたないイタリア語と身振り手振りを交えて花を選んだ。
こういうとき、仕事柄からわかるようで、女性は予算とかそういう無粋なことを尋ねたりはしなかった。
選ばれた花と用途を素早く察して、てきぱきと用意をしていく。
程なくすると、片手で持つのは少し無愛想なほど大きい花束が出来上がった。
会計をすませたツナは両手で受け取ると、手折られたばかりの花々の匂いが鼻孔をかすめた。
高貴な彼に捧げるのにふさわしい花束を、ツナは選んだつもりであった。
通り沿いで待っていてもらった車まで戻ると、トランクに積むのももったいなく感じたので、直接車内に持ち込んだ。
決して狭い車内というわけではないので、いいよなと思ったのだが、少し怪訝そうな顔をリボーンはした。

数時間後、真の目的地へ到着する―――








「Arrivo.」
比較的無言だった車内で運転手から『到着しました』と言われると、車がゆっくりと止った。

「ここが、そうなんだ。」
ツナが下りた場所は、見知らぬ土地であるが少し寂しい場所であった。
ローマの少し郊外に位置するので、元々人気などはそれほどないようだが、それ以上の寂しさを感じるのはここが墓地だからであろう。
そもそもが、明るい筈がなかったが、日の高い時間に来ただけあって鬱蒼とした感じはそれほどなかった。
「オレもついて行く。全く面識がないわけじゃないしな。」
同じように下りたリボーンは、ツナにそう言った。
ついでに護衛として二人の後ろからついてこようとした運転手の男に、来なくていいと制止の釘を刺す。
そういう場所ではないとわかった男は素直に従い、車に戻って行った。
「あ、そっか。リボーンは来たことがあるんだよね。」
リボーンは何度か日本からイタリアへと足を運んでいる。
墓に行ったことを直接的にツナに伝えたことはなかったが、埋葬のことを伝えたのはリボーン自身であったので、来たことがあるのだと思いついた。



入口にある厳かな白い教会には入らず、二人は目的の墓まで真っ直ぐ歩いた。
日的に誰ともすれ違うことはなかったが、見渡す一帯が墓で埋め尽くされている。
沿道に連なるのは優美な墓石達で、日本の墓とは違い芸術品とも見間違えそうなほど精巧なカトリックに馴染んだ彫刻をされた物が多かった。
少し小高い丘の上へあがると、他と同じようにその墓石が並んでいた。
名が目に入り、ツナは瞬間的に立ち止まった。
舞い散った枯れ葉をいくつか払うと、その名が浮き彫りとなる。

HAYATO GOKUDERA

そここそが、彼の眠る場所だった。
日本名で刻まれているので周囲から見ると浮いた感じであるが、真隣はハーフである母親の墓である。
望みを直接聞いたわけではないが、きっとそれが良いだろうということで、父親の家の傘下にあたる墓ではなく、こちらへ埋葬されたのだった。
没年は去年の日付であり、十四年という短い人生であったことが伺える。
後ろで控えてくれるリボーンに促されて、少し向き直ってからツナは白い墓標にそっと花束を添える。
好機を望んでいたかのように、風が迷い込んで花弁を揺らした。
墓参りにずっと行きたいと思っていたが、結局一年後となってしまった。

「随分と来るのが遅くなっちゃってごめんね。獄寺君。」
そう、獄寺隼人は死んでしまったのだ。
ツナの嵐の守護者、右腕として戦って、最期までそれきりだった。
奇跡というものは起きないもので、人は簡単に死んでしまうものだ。
死亡した後、姉であるビアンカが獄寺の住んでいたマンションを整理したが、おどろくほど簡素で何も部屋にはなかったとツナは伝えられた。
元々マフィアということで根なし草のようにマンション自体も転々としていたらしいが、必要最低限の生活必需品と常備していたダイナマイトしかなかったらしい。
彼の遺品と呼べるようなものはなかったので、ツナが受け取れたのはたった一つ。
「今日から君の位置はここになるから、よろしくね。」
唯一、獄寺が大切にしていたものとして残された七つのリングを納める大ぶりのボックスをツナは取り出した。
現存している守護者たちの指にはめられるべきものなので、今は嵐のリングしかそこにはない。

ボックスから嵐のリングを取り出したツナは、自分の空いた指にそれを嵌めた。
新たな嵐の守護者を選びなおすことはないと、それはずっと前から決めていたが、直接獄寺に伝えたかったから今まで手にするのは止めていたのだった。



「ねえ、リボーン。ずっと前、オレに遺言考えておけって言ってたよな?」
ふと思い出したことがあって、ツナはリボーンに訪ねた。
それまで遺言なんて物騒なものはあまり考えたくはなかったから、意識の奥底にしまいこんでいたことでもあった。
「ああ。獄寺が死んでわかっただろ?人ってのはあっさり死んでしまうもんだ。後に残された者のことを考えるのはボスの勤めだからな。」
遺言という者はある程度の年齢に達してから想定するようなものであるが、ボンゴレボスに値する身ともなれば即座に決めておくものであった。
最も結婚相手や子供が出来た場合に激しく変動するものでもあるので、一年に一度内容を更新するぐらいであるが。

「その一つにさ、オレのわがまま入れてもいいかな?
オレが死んだらこの墓の隣りに埋葬して欲しいんだ。」
もし自分が死んだらそっとでいいから空いている彼の隣に埋葬して欲しいと、それがツナの最初の遺言だった。
歴代ボンゴレボスの墓は知られていなことが多いのは、敵対マフィアに墓を暴かれて悪用されることが多いからだと昔聞かされた。
今から墓の心配をするなと普段のリボーンなら怒っただろうが、さすがにこの場では何も言わなかった。











翌日
ボンゴレ9代目の引退に伴う10代目就任式が執り行われた。



ツナの右の中指には大空のリング。
そして、親指には嵐のリングが光っていた。





彼がずっと望み続けていた、ツナの右腕の一部を生涯預け続けることになる。













待ち追い人は箱の中 2

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