リ リ リ リ リ ………
その日、とても珍しくツナの執務室の電話が鳴り響いた。
ボンゴレイタリア本部の電話は、全て電話交換手が一度受け取るので、直接的にこの部屋に電話がかかってくることなど、まずない。
外線も繋がっていないわけではないが、処々の防犯のため、ボンゴレ内部の人間でさえあまり番号を教えていない。
何よりかかってくる可能性の高いと思われる守護者でさえ奇想天外な人物が多いので、ツナの携帯電話に直接電話がかかってくることの方が頻度としては高い。
彼らと初めて会ってから、かれこれ10年という年月が経つが、守護者たちのツナに対する態度は変わらず、多分獄寺とクローム以外の態度はかなりフリーダムだった。
ということで、今執務机の端にある電話が鳴ったのは、内線によるものであった。
世間では立体型のホログラムが電話機として採用されているのに、この部屋の受話器は薄い金属程度であった。
滅多に使わない電話だからということで、ツナが無駄な経費を使うことを嫌がったことと、重厚なこの部屋にそういう文明の機器は不釣り合いと判断された結果である。
「はい。」
ディスプレイの表示を見ると、送り先は電話交換手だったので、何だろうと思いつつもそのままツナは出た。
目の前に積み重なっている書類の数々を乗り越える結果となるのは頻度の低さからだ。
「…失礼します、10代目。外からお電話がかかって来ましたので、そちらにお繋ぎします。」
まさか直接10代目のお部屋に電話を回すようなことがあるだなんて…と、まだ若い電話交換手緊張し気味に声を震わせた。
何とか慌てて、マニュアル通りの言葉を言ったのだが、しまった。大失態だ。
お相手が誰だか10代目にお伝えする前に、電話を切り替えてしまった。
手に汗握るキーボードのエンターがどうして滑って間違えなかったのだと、深く後悔した。
「うん。ありが………」
と、全てをツナが言い終わる前にあっさりと切り替えが済んでしまった。
ピッと機械音が鳴り、外線独特の音が入り混じりを耳に聞いた。
「ツナー、元気にしてるかーー?」
やたらでかい声が受話器から飛び込んできたので、ツナは反射的に受話器を耳から遠ざけた。
それでもまだ鼓膜にじんじん残るように反響音があるので、少し左手で耳を押さえる結果となる。
正直、うるさい。
「その声は…まさか、父さん?」
それは、一応忘れていない、話しをするのも相当久しぶりな家光の声だった。
親子関係があるとはいえ、日本にいた昔からマトモな父親として接してもらっていないので、少しぎこちない。
門外顧問として普段は表だってボンゴレイタリア本部に赴かない家光は基本、9代目に属している。
同じボンゴレとはいえ、ツナ相手に連絡など今までしてきたことなんてなかった。
「そう、オレオレ。可愛い息子よ。」
げ、嘘だ。とツナは瞬時に思った。
可愛がられた記憶なんて微塵も思い当らなかったから、またいつもの調子なんだ、この人は。
「で、一体どうしたの?」
呆れ半分にも話を進めるためにツナは言葉を出した。
どうせろくな要件ではないことはわかっていたが、曲がりにも一応親だし、この年にもなって反抗期だーとか言われて愚痴愚痴言われるのは嫌だし、母親である奈々に妙なことが伝わるのは遠慮願いたかったから。
「ちょっと、頼みがあってな…」
「頼み?」
馴染みなく家光が言葉を切って語尾を濁したので、ツナは思わず単語を繰り返した。
また随分と突然だが、この一瞬だけとは、いつものお気楽な様子が多少だが外野に飛んだと錯覚した。
「ああ。弟を空港に迎えに行ってくれないか?」
簡潔明瞭に家光はそう伝えた。
「弟………父さんに兄弟なんていたっけ?」
あまり御親せきとの付き合いなんてしたことなかったので、そっち関係は把握していないツナはふぬけた感じで聞いた。
元々父親に関してはあまり興味なかったのだが、弟がいるなら一度くらい食卓の話題にあがってもいいだろうかに、そんな記憶はさっぱりなかった。
試しに受話器を反対側の手に持ち直して考えてみるが、やっぱり思い当たらない。
「違う、違う。オレの弟じゃない。ツナ、お前の弟だ。」
物凄いことをさらりと、家光は言った。
「はぁ!冗談でしょ?オレの弟って………父さん、浮気してたのかよ?見損なったよ!!」
誰の?と一瞬わからなかったが、それを実感するとけたたましくツナは家光を責め立てた。
確かに家を留守しがちな父親だったが、まさか隠し子がいるという最悪な状況を巻き起こしていたとは思ってはいなかった。
ボンゴレ門外顧問という仕事を知っても、基本ツナの中の家光のイメージはぐうたらしている駄目親父だ。
それでも、人間として最低なラインだけは乗り越えていないと思っていたのに。
「失礼な。オレは奈々一筋だ!」
相当酷いツナの言いように、力強く家光は否定して、妻への愛を改めて宣言した。
信用ないな。おまえの中のオレのイメージはどんなだと本当は反論したい。
「じゃあ、弟って…何だよ。」
まさかバジルを養子に取ったとか、そんなことかとツナは頭を連想させる。
そうだとしても今までそんな身振り手振りは一度もなかったので、突然であることには変わりはないのだけど。
「きちんとオレと奈々の子だ。おまえの弟が、日本からイタリアへ来るから迎えに行って欲しいんだ。」
改めてのきちんとした言葉を家光は言った。
ピッと切れた機械音。
それを意味もなく呆然と聞いたまま、しばらくツナは執務机相手にだらっとなったままだった。
「会えばわかるって何だよ。駄目親父の奴…」
反射的に受話器を投げつけなかった自分は偉いとさえ思ったほど、思わず悪態が出てしまうのも仕方ない。
何時の間に弟なんて作ったんだ!と追及するほど、ツナは今回の出来事を全く知らされなかった。
忘れていた、ごめん。と軽く家光に謝られたが、そうやって誤魔化すように忘れていたのが本心ではないだろう。
十七歳も年下の弟がいるだなんて、あのちゃらんぽらんな父親から聞いたのではまだ信じられない。
詳しくなんてマトモに話してくれなかったが、どうやらツナがイタリアの大学に進学している最中に、弟は生まれたらしい。
そう言えば、ツナがイタリアに来るということで、反対に家光は今まで取れなかった有給休暇だ!とか言って、長らく日本に帰っていた期間があった。
ツナとすると全く未知のイタリアで過ごす日々が大変しすぎてそこまで頭が回らなかったのだが。
多分、9代目とかリボーンとかは何気に知っていただろう。
知らなかったのはツナだけ。
わかっているけど、弟のことを知らされていなかったのは、跡目争いが勃発するからだろうと、ツナだってわかっている。
実は9代目の息子ではなかったということで、XANXUSとの 10代目争奪は何とか事なきことを得たが、それは他に10代目候補がいなくなった…殺されたからである。
ボンゴレを継ぐ次世代の子供はツナのみになったから現状を維持しているが、他に後継ぎがいるとなれば話はまた違う。
家光の子供ということで、東洋人であることに変わりはないが、祭り立てて利用され、最後には消される心配がある。
一方を持ち上げて傀儡としようなんて輩はいくらでもいるほどボンゴレというマフィアの規模は計り知れないのだ。
まだそれが幼い子供だというなら、余計にそれは酷く現れる。
それに、ツナ自身も気にするだろうという配慮もあったに違いない。
未だ周囲に望まれているからしぶしぶボンゴレ10代目になることを了承しているが、自分にその器が合っているとは露とも思っていないので、他に適任の人物がいるなら譲っていいと思い続けている。
やっと、他の幹部にも認められるほど地位をツナが確立したため、弟の存在を告げられたのだろうなと思った。
それに少々年であるのに、結婚していないし子供もいないのも理由かも知れない。
自分に不幸があったらの、保険という意味も多分ある。
ボスとして愛人を囲めという周りの警告はとても嬉しくないものでもあった。
ともかく言われたからには、弟とやらを迎えに行かなくてはいかない。
出かける前から、ツナは少し鬱になりそうだった。
偽りの隔世遺伝 1
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