何だか…いや、かなり行きたくないぞ、空港に。
そう思いながらも、身を引きずりながらツナは部屋を出た。
正直、ボンゴレ10代目として忙しいので自由が出来る身ではないのは家光よりツナの方だった。
それでも迎えに行かせるのは、意味があるのか、それとも無理やりのきっかけを与えられたのか、定かではない。
「お、沢田。出かけるのか?今日はデスクワークをするのではなかったのか?」
秘書に連絡して、なるべく目立たない車を裏に回してもらって、乗り込もうと思ったところで、了平と遭遇した。
守護者のスケジュールは大体管理しているので、今屋敷にいるのは彼ぐらいだなとツナは思い当たる。
と言っても面倒な任務の間にたまたま本部にいるだけという時間しか与えられていないのだが。
「えっと…ちょっと、出かける用事が出来まして。」
了平相手に敬語を使い続けることは昔から変わっていない。
周りは疑問に思うが、ツナの気質からすると、これが当たり前なのだ。
「一人で出かけるのか。大丈夫か?」
一人…と言っても一応黒づくめの運転手はついている。
それを人数に数えることがないのがマフィアらしいが、護衛としてついていくと、シャドウボクシングのポーズをして了平は言った。
スーツを着てもなお、その拳は風を斬るように鋭い。
「心配ありがとうございます。少し出かけるだけなので、大丈夫ですよ。」
ありがたい言葉であったが、これから弟に会いに行くんです。付いてきて下さいとはとても言えなかった。
了平の性格なら案外簡単に受け入れてもらえるかも知れないが、これはまだ言うべきことではないだろう。
迎えに行くということは、屋敷に連れて帰るのだから、時間的に結局紹介する羽目になるのだろうけど、まだツナの方も半信半疑でいたかったのだった。
実は冗談で、空港に居たのは別の人物だったとか、今でも願いたい。
「そうか。気をつけろよ。」
そう言ってくれる了平に軽く頭を下げて、そのままツナは車に乗り込んだ。
悪いが、感動のご対面だなんて、ツナは全く期待していなかった。
一応、滞りなく目的の空港に着いたのだが、家光からは時間と到着便しか聞いていない有様である。
高く掲げられた電光掲示板を見ると、フライトによる遅延はないようだった。
しかし、よく考えれば弟という人物の姿がわからない。
向こうだってツナの姿を一発でわかるかどうか、疑問だ。
ボンゴレ10代目と簡単にはわからないようになるべく素面な格好をしてきたのは逆効果だったかもしれない。
不安に思い、一応登録してあった家光の携帯電話番号を初めてプッシュして見るが、いくらコールを重ねても繋がらない駄目親父。
母親である奈々に電話すれば、あの父親よりは少しはマシな話が聞けるかも知れないと思ったが、面白いわねと言って弟の存在を告げくれなかった奈々の性格にもちょっと呆れている今だったので、電話するのも僅かに躊躇した。
ああ、写真とは言わないがせめて、身体的特徴くらいは聞いておけば良かった。
「オレもアイツのことはよくわからん。」
弟のことを漠然と聞くと、このように適当に言っていた家光が恨めしい。
とりあえずぐたぐだと考えていても仕方ないので、出国ゲートから出てくる人をツナは眺める結果となった。
年齢さえきちんと聞いていないが、とりあえず逆算すると6歳の筈だ。
しかし、どんな子供だろう。
自分の小さい頃の記憶なんてほとんどないから、自然と周囲の6歳たちを思い浮かべる。
どうしてだろう…色々と6歳前後の子供に今まで出会ってきたというのに、ぱっと連想されるのはそのころのランボのことばかりであった。
あまりにもインパクトが強すぎると、かえってそれしか思いつかないと言うのは、悲しいことだ。
あんなのといっては失礼だが、やっぱりあんなのがリアルに弟だったら、どうしようと出会う前から痛い頭が余計に痛くなった。
出国ゲートから一人で歩いてくる6歳児なんてそういないであろうから、わかると思っていた。
しかし、実際に目の前にやってくるとハテナマークを浮かべずにはいられなかった。
淀みなくツナの前方にまで歩いてくる子供。
細身の少年は、ツナの一歩手前で止まった。
「はじめまして、かな?………ボンゴレデーチモ。」
瞬時に本当に同じ遺伝子か?とツナは思った。
隔世遺伝にしても、金髪…金の少年が語りかけてきたのだった。
そりゃツナも日本人らしからぬ茶色がかったくせのある髪質で、生粋の日本人とは言い難いけど、この少年は顔のパーツはツナと一緒で、でも金髪だった。
心なしか整った顔をしているように見えるのは、昔の自分のようにだらけてはいないからかもしれない。
やっぱり、自分に似てる?のだろうかと疑問になる。
初めて会った弟の前だというのに、少し首をかしげたい気分にもなった。
「えーと。こちらこそ、初めまして。家康、だっけ?」
ご先祖様のお告げがあってな、名前は『家康』だと家光が言っていたので、ツナは一応名前を呼ぶが、正直似合わないなと思う。
あまりに日本人らしからぬ髪色なので、本当にボンゴレプリーモにあやかりたいというなら、Giotto(ジョット)と言う方が似合っているなと、口に出さないが思う。
「とりあえず…ここじゃ何だから、屋敷に行こうか。」
ボンゴレ10代目という地位を持ちながら不用意に空港にとどまるのはあまり良くないし、この子にとっても危険が孕む。
荷物受取所で小さな黒いカートを引き取り、ツナは行きと同じ車に今度は弟を連れて乗り込むこととなる。
しかしその間、何を話せばいいのか、さっぱりわからなかった。
弟というのにぎこちなく対応してしまうのは、6年間存在を知らなかったということよりも、少年の持つ雰囲気が子供らしからぬ様子であったからかもしれない。
そして、結局ツナが事実を知ることは将来、なかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ツナの弟…ということになった、家康は車の中でツナの隣りに静かに座っていた。
まず城へと向かうとうことで、懐かしの場所へ辿り着くことを感慨深く思っていた。
どんなに文明が発達しようが、ボンゴレイタリア本部の壮大な城だけは何百年を経ても変わらないものだ。
自画自賛するわけではないが、美しい城だ。
その建築を一通り指示したのは家康自身だったので、多分いまでも改築されていない城の中を目をつぶってでも歩ける自信がある。
実際、人の身体という媒体をきちんと通して歩くのは何百年ぶりだろう…
この行為は許されることではないとわかっている。
しかし、これぐらいしなければデーチモの側にいることは叶わないのだ。
ふっと、少年らしからぬ笑いを浮かべると、車のスモークが張られた窓ガラスに写った本当の姿が見え隠れしてしまった。
生憎逆方向を向いていたツナがそれに気が付くことはない。
それを告げることもないだろう。
ボンゴレプリーモ、本当である彼の姿は隠したまま…
デーチモに見捨てられたら多分成仏してしまって、この身体も使い物にならなくなる。
本来入る魂を乗っ取ってやったのだから。
だから決して………
言わない。言えない。
偽りの隔世遺伝 2
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