この未来に、獄寺が守るべき人が居ない。
その事実を受け入れた時、獄寺はあまりにも自然に自分のこめかみに銃を突きつけたので、山本が本当に止めるのは間一髪であった。
何とか外させることが出来て一命は取り留めたが、この有様だ。
その後も自暴自棄になったこの男を放置するわけにはいかず、他の守護者たちと話し合った結果、しばらくアジトの自室で謹慎処分を受けた記憶は新しい。
「なっ、10代目が死んだ?そんなバカな話があるか!!!」
到底受け入れられなさそうなことを聞かされて、獄寺は扉をドンッと叩いて叫んだ。
10年後の自分と入れ替わっていると気が付いていない山本が嘘をつくとは思わなかったが、信じられるわけもない。
しかも、自分をかばって…だなんて、どうして!
右腕として死ぬべきだったのは、どう考えても自分の方だろうに。
「ああ、確かにバカだよ。他の幹部連中からも、狙われた部下をボスが庇うなんてと落胆されているさ。でも、オレは知ってるぜ。おまえらは恋人同士だったんだろ?あの時、ツナが無意識におまえをかばったのはボンゴレ10代目としてではなかったと、オレには見えたんだよ。」
ミルフィオーレのやりくちの汚さは辟易するもので、思い出しただけでも山本は胸くそが悪かった。
本当に狙われたのは守護者に厳重に守られたガードの固いツナではなく、右腕である獄寺の方だった。
奴らは周りから潰して確かにあの時、ツナは獄寺を庇うべきではなかったのかもしれない。
結局、獄寺自身もツナを失ったせいで壊れてしまったのだから。
その結果がわかったとしていても、獄寺がそのまま死に行くのを良しと出来るようなツナではなかったことだけしか、今はわからない。
「オレのせいで、10代目が…」
情けないが、獄寺の声は震えていた。
10年後の二人の関係が、恋人同士というのは本当なら喜ぶべきことだったのだろうが、それが原因だとするのならば全く笑えないことだった。
事実、獄寺はツナのことが好きで、その感情は尊敬以上のものだった。
しかし、きっかけも掴めなかったし、立場上思いをぶちまけるなんてとんでもないと思っていたので、はっきりと口で伝えたことはなかったのだ。
「ともかく、大人しくしていてくれ。間違っても変な気を起すなよ。」
そう言いつけると、鍵がまだきちんとかかっていることだけを確認して、山本は部屋から離れた。
立ち去る足音が静かに響くが、後に残された獄寺は呆然と突っ立つままだった。
山本の言葉からでは、断片的にしか状況は知り得なかった。
10年後の未来では、ツナが死んだということしか頭に入って来ない。
どうするべきなのかと決めかねていた。
再び壁時計を見上げると、カチッと長針が動き四時を刺そうとしていた。
来てから丁度一時間経つなと認識した瞬間、獄寺は過去への煙に再度包まれた。
灰色から白い煙へと移り変わりを告げると、身体が地面に落ちた感覚が次にやってきた。
「つっ、」
ドンッとした衝撃に小さく声が漏れる。
突然、現代に戻ってきたことで直ぐには対処できなかった獄寺は、直ぐには晴れない白い煙の中でも、さすがに腰から地面に落ちたことだけはわかった。
やっと戻って来れたと思う中で立ち上がりながら、無意識にツナの姿を探した。
「10代目?」
ちらりと姿を見受けられたのでいつもどおりその名を呼んだが、獄寺は次の瞬間目の前の光景に絶句した。
ベッドの上で壁に半分だけ背を預けているツナの着衣は下半身を中心に激しく乱れており、引き裂かれたシャツの切れ端がサイドに落ちている。
真っ白なシーツには点々とした鮮血と白濁の液体が散らばり、それはツナの下腹部からも続いていた。
涙が止めどもなく流れた跡が目じりと頬に残り、両手で両膝を必死に抱えて糸が切れた人形のようにガタガタと震えて錯乱している姿が、獄寺の目に焼きついた。
「なんだ………これは!」
獄寺が怒りに任せて叫ぶと、ツナは焦点が合わずこちらを見ていない筈なのに、びくっと震えた。
そして驚愕の瞳でこちらを見上げる。
それは獄寺に対する恐怖を示したもので、10年後の自分がツナにした行為を思い知ったのだ。
ツナに自分に対する畏怖を植え付けるには十分過ぎる行為だった。
「スミマセン、スミマセン、スミマセン………」
がくりと膝を付き、謝っても謝りきれないほど、獄寺は連呼した。
それでも近づくことさえもう許されない。
10年後の自分は、この日この時を待っていたのだ。
ツナが死んでしまう原因となった自分が許せなかったんだな、でもとりかえしはつかないから、こんなことを。
さすが10年後の自分だ。
必ずこうなるようにとすべての可能性を摘み取るためにツナを傷つけて、逃げ道は一切残しておらず導きされる道をただ一つにしたんだ。
このお方を好きになってしまったことがそもそもの間違いだったのだと、知り得た。
ようやく立ち上がり深くおじきをした後、獄寺はツナの部屋のクローゼットを勝手に開けて、そこから黒く不気味に光る拳銃を取り出した。
これはリボーンが護身用にと部屋に残しておいたものだった。
「本当にスミマセン………でもオレ、生半可なダイナマイトじゃもう死ねない身体なんです。」
彷徨うように揺れ動くツナに、最期ですからと言って近づいた獄寺は、銃をツナにしっかり両手で握らせて引き金にも指をかけさせた。
そして獄寺自身はその銃口に自らの口を突っ込んだ。
「………ご、獄寺…君?何を………」
抵抗する気力もなかったが、状況が理解できなくてもツナはそう聞くことが精いっぱいであった。
10年後の彼が自分にした行為は忘れてはいないが、獄寺が今からする行動は一つしか思いつかなくて、恐怖以上の声が出る。
「最期にありがとうございます。…好きでした。」
獄寺に残された道は、最期に想いをぶつけてこの連鎖を断ち切ることだけだった。
10年後の自分は、過去をも覆す狡猾な男だったのだ。
この10年バズーカでは、確かに過去の自分を直接に手を下せないから、必ずオレがオレを殺すように巧妙に仕向けたのだ。
オレがオレ自身を殺して10代目が後悔しないようにとご丁寧に。
だからこそ、オレを許してはいけないのです。
「あなたは、生きて下さい。」
最愛の人の手で死ぬ贅沢だけは許して下さい。
「い、嫌だ!!!」
初めて獄寺はツナの命令に逆らった。
声は無視され、誘うように一緒に入ってきた指によって引き金が引かれたのだった。
鋭く、鈍く、響く、音−−−
カルマの砂時計 2
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