ツナが自分の部屋の惨事を見て、またいつものことかと思うのは至極当たり前となっていた。
だから、今回もそうだろうと思いこみ、深くは考えなかった。
「ぐすっ、ぐすっ、、、」
現状、まだランボがリアルタイムで泣き叫んでいないだけでもマシなのかもしれない。
ぐずりが丁度おさまったぐらいの時間に部屋に戻ってくることになったツナは、相変わらずめちゃくちゃになっている部屋の様子を見て溜息を一つついた。
決して普段の自分の部屋がきれいに片付いているというわけではないが、それでも少なくとも弾丸が壁に埋め込まれていたり、火薬で焦げ付いたテーブルというのは、あり得ないであろう。
そんな部屋の中で、リボーンはハンモックの上で昼寝をする格好をしており、ランボはマスカット味の飴袋を床に落としたまま泣きべそをかいている。
「あー、またランボ!リボーンにちょっかい出したのかよ。」
おしゃぶりのように指をくわえているランボを抱きかかえて、仕方なくツナはなだめた。
「オレじゃねーぞ。獄寺が泣かせたんだ。」
犯人扱いされたことでいつものリボーンならちょっと散弾銃でも打ち込むところなのだが、生憎今日は眠気の方が勝っていたため、真の犯人を伝えるのみであった。
「ええー獄寺君が?で、どこ行っちゃったの?」
今日は日曜日で、山本と並んでよく沢田家に遊びに来てくれることは毎度おなじみだった。
たまたま欲しいCDの発売日だった為、珍しくツナは朝早くから出かけていたが、肝心の獄寺の姿は部屋のどこを探しても見当たらなかった。
こんなことを思うのも悲しいが、獄寺とランボの相性は水と油のように最悪であった。
またどんなことが原因でケンカをしたのかはわからないが、結末は大体想像できる。
「それに当たってから、おまえを探しに外に出て行っちまったぞ。やっぱり鉢会うのは無理だったか。」
「それ?」
疑問に思いながらも、リボーンがそれ…と指を刺した物を見るとテーブルの向こうに盛大に大破した10年バズーカが転がっていた。
前々から故障気味だった10年バズーカではあったが、ここまで分解されているのは初めて見たので、なるほど、ランボがなかなか泣きやまない理由がわかった。
いつもなら新しい飴を一つでもあげれば、直ぐにそちらに気を取られて少し前の不機嫌など吹き飛んでしまうというのに、さすがにボスからもらった武器がこんなになっては落ち着いてなどいられないだろう。
「て、ことは!もしかして10年後の獄寺君になっちゃったわけ!?」
はっと冷静になってツナは思いつく。
「ああ、そうみてーだぞ。まあアホ牛が怒りにまかせて10年バズーカを何発も打ってたし、現われたと思ったら直ぐに外に行っちまったからよくわからないけどな。」
本当に眠たそうにリボーンはそう言った。
興味がないわけではないが、未来のことを考えると大人ランボや大人イーピンのこともあり、あまり深く考えたくはなかったのだ。
そこまで事情を聞いたツナは、明日朝に会ったらランボのことをきちんと謝らなくちゃなと、思うのみであった。
次の日のいつもどおりの朝に、獄寺は沢田家の前にはいなかった。
「おはようございます!10代目!!」というご近所さんも振り返るあの大声がない。
別にツナが頼んでいるわけではないのだが、右腕の役目と本人は言い張るので毎日朝迎えに来てくれて一緒に学校に向かうのがすっかり習慣になっていた。
それがないということに少し首を傾げたが、たまにはこんな日もあるだろうと、ツナは歩き出した。
「何だ、獄寺はいないのか?」
今日は朝練のなかったらしい山本と道の途中で合流したときにも開口一番でそう言われたので、やっぱり山本も何も知らないのだと思いついた。
風紀委員長の雲雀が校門の前で遅刻者をチェックしているのを横目にすると、まもなくキーンコーンカーンコーンと始業の鐘が鳴り響く。
そして、肝心の授業が始まってもやはり獄寺は現れなかった。
先生に至っては、獄寺が連絡なしでサボるのはいつものことなので、出席を取るだけで深くは追求しない。
日本の中学校って一応義務教育だよな?と思うが、ツナ自身もリボーンが来る前はよくサボっていたので、深く突っ込みを入れられなかった。
結局、獄寺は学校に一度も姿を見せず、ツナは帰路も寂しく一人で家に着いた。
当たり前すぎて忘れていたが、迎えに来てもらうのも一緒に帰るのも義務でも義理でもないはずだった。
でも連絡もなしにそれを食らったので、ツナは面を食らっていたのだった。
いつも過剰な接待を受けるので、それがないと妙な気分に陥る。
「ただいまー」
なんだか半分落ち着かない感じで玄関を潜ると、廊下に置かれた電話がリーンと鳴り響いた。
「はい、はーい。…あら、ツナ。お帰りなさい。おやつあるわよ。」
ちょうど電話の音とツナの声が重なったらしく、母親である奈々は両方に反応した。
まだ靴を脱ぎきっていないツナはそのまま受話器を取ることは叶わず、奈々がガチャリとそちらに手をかけた。
「はい、沢田です。」
主婦業をしているので電話を取るのは日常茶飯事だ。
いつものように奈々は電話へと向かった。
「………え?獄寺君?あら、ごめんなさい。ちょっと気がつかなくって、ええ。ちょっと待ってね。」
そんな声が目の前で聞こえたので、ツナはバッと顔を上げた。
急いで脱いだので靴が無造作に横に倒れたが、直すのは後回しにする。
「ツナ。獄寺君よ。」
保留に切り替えてから奈々は、そのまま受話器をツナに手渡した。
とんっと受け取ったツナは通話ボタンに切り替えた。
「………10代目ですか?」
電話の向こうから少し躊躇がちな獄寺の声が聞こえた。
獄寺は約束などをしていなくても家に来たりと、いつも直接会うことが多いので電話を介するのは珍しい。
「もしもし、獄寺君だよね?」
なんだか声の様子も感じもいつもの獄寺と違ったので、半分戸惑いながらツナは答えた。
平素に自分に対してだけ見せる、突き抜けるような明るさはなかった。
「はい。あの、今日10代目は学校に行っていらっしゃったのでしょうか?」
「そうだけど…ていうか、君だって本当は学校だろ?どうしたの、突然休んじゃって。」
普段よりとても丁寧にそう聞かれたが、それ以上に気になったことをツナは聞き返した。
獄寺が学校をサボることは珍しくはないが、自分にはありがちなかったるいという気持ち以上にいつも何かがあることが多い。
電話越しの様子だと少し声は変だが、体調が悪いようには見受けられなかったから、尚更だった。
「…申し訳ありません。」
ただ一言獄寺はそう謝ったが、続く言葉がない。
仕方ないのでツナは原因となりそうな一因を口にすることにした。
「もしかして、昨日のランボのせい?また何か失礼なことを言われた?」
元々その件に関しては謝ろうと思っていたので、行き着く。
過去にもそんなことが何度かあり、その度に気にしてツナは口にしていたが、獄寺からすると10代目が謝る必要はありません。悪いのはあのアホ牛なんですから!という言葉が返るのがいつものことだった。
「いえ、そうではなく…あの突然で申し訳ないのですけど………」
何処までも歯切れ悪く獄寺は言葉を区切る。
「他に何かあったの?」
「オレ、しばらくイタリアに行ってきます。」
きょとんと聞き返すツナに対して、獄寺ははっきり言い切った。
帰ると言わず、行くという表現を用いるのは、獄寺にとってイタリアが帰るべき場所ではないからだ。
生まれも育ちもイタリアで縁あって日本にいる身ではあるが、父親のいる生家に戻りたいなどという気持ちは微塵もない。
だからそんな表現となる。
「え?あ、うん。行ってらっしゃい。」
なんだ、そんなことかとツナは拍子抜けした後にそう返した。
ちょっくらダイナマイトの仕入れに行くんで留守にします。と、獄寺が言ったことは何度もある。
その行先は大抵馴染みの深いイタリアだと、聞くことが多かった。
嫌っているらしい家のことは口にしないが、ツナを守るために新しく仕入れた諸々の武器の話は良くしてくれたので色々な意味で印象深い。
だから、なぜここまで深刻に言われるのであろうかとツナは疑問に思うのだ。
「それで、半年ぐらいは日本に戻らないで、報告させてもらいました。」
どこにいるかわからない電話の向こうで、なぜか深々と頭を下げられたような気がツナにはした。
それほど鮮明に言われた言葉が心に突き刺さったのだ。
「………半年?」
その年月が直ぐには理解できなくて、ツナはゆっくりとその単語を反復した。
今まで獄寺がイタリアに行くと言うときでも、大体一週間かそこらで日本に戻ってきた。
ツナはイタリアどころか国外にさえ出たことはないので、日本からイタリアへ向かうのにどれくらいの時間がかかるか知らない。
立派なマフィアのボスになるための勉強としてリボーンからいくつか本を読まされているが、実際将来自分が行かされるであろうイタリアに関する地理や教養の本はまだまだ先ということで頓挫されていた。
だからイタリアは遠い国という印象しかないのに、そこに半年も?
獄寺が居なくなる………
そのことが、単純にのしかかったのだ。
永遠の過去にすがる男 1
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