その後も電話のやりとりはぎこちなくも続く。
申し訳なそうな獄寺に強く、理由を追及したが、いくら聞いても教えてくれなかった。
オレの我が侭ですからと押し切られ、ただ曖昧に「10代目のために必要なことをしてきます」と終わられた。
だったら当人である自分に教えてくれたっていいじゃないかと思ったが、それもやんわりはぐらかされる。
せめて見送りに行くと出発日時を聞いたら、なんと今空港にいて夜の便で出立する手筈になっているそうだ。
それまで気がつかなかったが、そう言われてみると電話の後ろからは、がやがやとした人の色々な音とフライトの合間から漏れるような明らかに日本語ではない言語がアナウンス音と一緒に流れている。
いくら半年後に戻ってくるとは言え、一時のお別れもさせてくれないのかとツナは不本意そうに伝える。
獄寺からスミマセン………と何回謝られたか、もう数えられなかった。
それでも行く何らかの理由があるのだろう。

ようやく観念したツナは「気を付けて」「無理をしないで」「連絡してね」と言葉を並べて、獄寺が了承したところで、かちゃんと電話を切った。





「あら、ツナ電話終わったの?随分と長かったわね。それにしても、電話越しで聞く獄寺君の声って大人っぽいわねー」
という奈々のいつもの声にも軽く反応を示すことが出来ない。
頭がいっぱいになりながらも、ふらふらと階段をあがって二階の自分の部屋に行く。
そのままぼすんっとベッドに倒れこみたかったが、それは立ちふさがった目の前に人物に阻まれた。

「遅せーぞ。何してやがった?」
赤ん坊のわりに不機嫌そうに仁王立ちしていたのはリボーンで、早速問い詰められる。
基本、この家庭教師が来てから学校から帰宅した後は、立派なマフィアのボスになるための勉強をツナはさせられている。
時には学校の宿題を見てくれたりもするが、スパルタ以上にも感じられる他の要因もある。
だから無意味に寄り道して遅くなったりすることをリボーンは嫌っていた。
「リボーン。獄寺君がイタリアに行くって聞いてる?」
そうだ、と思いついてツナは聞いた。
獄寺はリボーンに対しては自分に対するのとはまた少し違う尊敬の念をおいていたから、理由を知っていると思ったのだ。
「オレは何も聞いてねーぞ。」
突然のことに驚きを表情に出すようなリボーンではなかったが、覚えがないとはっきり言った。
それでも、いぶかしむ動作はする。
本当に毎回うるさいぐらいに右腕に固執する獄寺が勝手にこんなに簡単にツナの近くを離れるという構図は、あまり考えていないことであった。
リボーンからすれば右腕というものは近くでボスを守るというのが当たり前だ。
「ビアンキからも?」
姉であるビアンキには何か伝えてあるかもしれないと思って望みを託して聞く。
ビアンキこそリボーンに対して何かあったら隠し事をするタイプではないだろう。
「ああ。」
しかし結果は無情にも一言で終わった。
リボーンから見れば、獄寺が嫌っている姉にわざわざ自分の行先を伝えたりはしないと検討がついている。
事実、獄寺が日本にいるのはツナのためであるが、ビアンキが日本にいるのはリボーンの為で、たまたまツナとリボーンが同じ家に住んでいるので鉢会ったぐらいの奇跡なのだ。
顔を見れば倒れてしまう間柄で、近づきたいなどという持ちはないであろう。
「そっか…」
頼みの綱だったリボーンからもそんな言葉を受けて、ツナは少し落ち着きを示した。
一番に自分に言ってくれたというのは嬉しいけど、単純に喜べるようなことでもないのだ。



リ リ リ リ リ リ リ
そんな空気を割って入るかのように機械音が部屋に交じる。
「何、この音?」
いつもの、また何かヤバいものかと連想されて、警戒しながらもツナは聞く。
「オレの携帯だ。」
存在だけ明かすと、リボーンはよっと高くジャンプをして自身のハンモックへと飛び乗った。
そこから小型の携帯電話を取り出す姿を見て、ツナはリボーンがそんなものを持っているのかと、知らなかったので少し驚いた。
一般的に見れば拳銃やらカメレオンやらを持っている方がおかしいのだろうが、すっかり感覚もマヒしている。
「獄寺から、だな。」
携帯電話のディスプレイを見ながらそう言ったリボーンが少し怒っていることは、付き合いが長くなったためツナにも読み取れた。
今、まさに話題になっている彼からの連絡である。
ツナは非常に気になったが、そんなのをわざとみたいに置いて、リボーンは携帯電話を持ちながら部屋を出てしまった。
もし今追いかけたら、後でどんな目を受けるかどうかわからないので、ツナは足が動かなかった。






数十分後、ツナの部屋に戻ってきたリボーンは、無言のまま不機嫌そうに諸々の銃の手入れを始めた。
獄寺のことは何も言わなかったし、まとう空気からも聞けるような雰囲気ではなかった。
全てを知っていたからこの時の行動をどれだけ後悔したか分からない―――









そして、何もわからないまま、日にちは着実に過ぎ去った。
次に獄寺からツナに電話があったのは意外と早く、二日後の夕方だった。
それは無事にイタリアについたとの連絡で、やっぱり側を離れて申し訳ないと、何度も謝り倒された。
リボーンと連絡を取っていたようだし、何か事情があるんだろうなと思ったツナは、もうそれ以上は追及しないことにした。
「あなたに相応しい右腕になれるように男を磨いてきます。」
そう…冗談のように言われた言葉が最後に耳に残る。

その後も三日を明けず電話がきた。
ご連絡は必ず致しますと言っていたので、本当はもっと小まめに連絡を取りたいようだが、迷惑にはならないようにという感がひしひしと伝わる。
「時差があるから今そっちは朝でしょ?」とツナが尋ねると、獄寺は驚いたように「そうです。」と答えた。
今更ながらイタリアという国が気になったツナは、獄寺が旅立った次の日のお昼休みに図書館に足を運んで、基本的なことだけは調べた。
それまで時差がどれくらいあるのかとか、気候は温暖なのかとか、どんな食事をするのかとか、何も知らなかった。
学校の世界史でも勉強するような国ではないが、それ以上に将来自分が行けと言わされている国をあまり良く思っていなかったツナにしては、この行動は快挙だったのしもしれない。
電話だけではなくて、イタリアの美しい風景などを彩った絵葉書も時折だが届けられた。
さすが芸術の国イタリアというところだろうか。
美術に乏しいツナでも送られてくるものの素晴らしさは深くわかった。
ただ、絵葉書という媒体のせいか、獄寺自身が映っているような写真は一つもないが。

半月後、初めて荷物が届く。
差出人が獄寺のツナ宛へ送られてきた小包には、小型のノートパソコンが入っていた。
今、イタリアに居るというのにそのノートパソコンは純日本製であった。
パソコンなんて学校の授業でたまにしか使ったことはなかったが、電源を入れて立ち上げてみると既にセットアップはすませてあるみたいだ。
沢田家には父親に関する謎がある。
蒸発したと思われている父親が、ノートパソコンを所持していたことをツナは覚えていたのだ。
子供ながらにそれが目についたのは、つるはし及び土方姿とパソコンという取り合わせが非常に不釣り合いだからであった。
父親がどこかに持って行ってしまったのでノートパソコン自体はもうお目にかかれなかったが、放置されていた有線LANケーブルを獄寺から送られてきたパソコンに繋げると、あっさりインターネットにも繋がる。
確かインターネットに繋げるにはプロバイダへお金を払わなければいけなかったと思うのだが、もしかしたら電話料金と一緒になっているから母親が忘れているのかもしれないとも思った。
それから、獄寺とのメールのやり取りが始まる。
附属されていたマイクとイヤホンを使って、パソコン越しにも会話が可能になった。
カメラはないので顔が見えるということはないが、以前より簡単にやりとりができるようになったのだ。
それはまるで以前と同じように隣にいるようだった。
しかし、一方的ではないのだが、獄寺の居場所はさっぱりと掴めなかった。
漠然とイタリアに居ますというのだが、ビアンキに聞いた話では実家に戻ったわけではないらしい。
そんなもやもやを胸に抱きつつも、概ね二人の関係は平行線で進んだ。





そして、ついに連絡が入る。

「10代目の誕生日に間に合うように戻ります。早くあなたにお会いしたい。」
獄寺がイタリアに旅立ったのは、5月の初旬であった。





随分と久しぶりの再会になる−−−













永遠の過去にすがる男 2

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