ボンゴレ10代目…沢田綱吉、死亡。
その事実に呆然と立ちすくむことしか出来なかった獄寺の目の前に現れたのは、10年前のリボーンであった。
リボーンは10年バズーカの効力によってこの世界にやってきたらしいが、5分経っても元の世界に戻らずそこにあり続けた。
そして次を示唆する可能性をゆっくりと口にする。
もしかしたら他の人物…ツナも来るかもしれないということを。
気が付くと獄寺は、がむしゃらに走っていた。
ミルフィオーレによるボンゴレ狩りがあるというのに、全ての任務を投げ出して、あのお方をお待ちするために棺の前で待つ。
そして、やっとお会いすることが出来て…
愛しい人最後の声が聞こえたと思った瞬間、獄寺の視界は白く曇った。
あっという間に自身の周囲を覆う得体のしれない煙は、振り払う余地もなく、ただ獄寺を目的の場所へ運ぶのみであった。
その一瞬に何かが出来ようともしなかった。
ああ、目の前には10代目が居て、ようやく会えたというのに。
本当は苦笑するしかないのかもしれない。
これが、自分に与えられた罰なのだから。
近くにいられなかったとはいえ、易々と10代目はミルフィオーレによって手に掛けられてしまった。
忙しい中、最後にあのお方にお会いしたのはいつだったであろうか。
結局何も叶わず、棺の前で呆然と突っ立つことしか許されない中、夢のように現われたのが、10年前の沢田綱吉だったのだ。
動揺の中、自分はうまく未来のことを説明出来たかどうかわからないが、その短い時間でさえ終わりを告げる。
やはり側に居ることは許されないのだと決定的に思い知った。
今、獄寺は自分の状況をまるで掴めないでいた。
宙に浮かびあがるような虚ろな世界で、漂う意識程度では自分の体さえ見ることが出来ないのだ。
辛うじて視覚は働いているようだが、身体の実感がないので瞬きをすることも叶わない。
ただ、そこにあるだけの存在として奇妙な空間に居続ける。
ぐにゃりとした視界は晴れず、自分がここに存在するという認識が限りなく低い空間に立たされた。
あの自分の煙を包んだ感じは良く見知ったランボが10年バズーカを使うのによく似ていたから、自分は過去へ飛ばされたのではなかったのかと思ったが、その実感がない。
すっと前に進むと、ここが限りのある場所だとわかった。
強力なガラス越しに向こうが見える。
何かわからない機械がたくさん積まれている、白い場所だ。
唯一わかったのは自分が囚われの身ということぐらいか。
ここはそこそこに広いようだが、リングも匣も持たない今、とても破れるようなものではないので、抜け出せるとは思えない状況だった。
「………リボーンさん?」
獄寺が周囲を見回すと、ぼんやりとだが見知った身体が浮かんでいた。
それが、ボンゴレ10代目の家庭教師であり最強の殺し屋であるリボーンであると獄寺には、にわかに信じにくかった。
獄寺の記憶の中にあるこの姿のリボーンは、死んだはずだったから。
正確にはノン・トゥリニセッテを浴びて弱ったところでミルフィオーレの糾弾に倒れて、目的のものと思われる晴れのおしゃぶりを強奪された。
「なぜ、ここに………」
近寄って見るが、リボーンは横になったまま目をつぶって動きはしない。
大体、彼は10年バズーカによって入れ替わりがなされた筈ではなかったのか?
数日前に10年前のリボーンがやってきたことは、獄寺の記憶に新しいことであった。
10年バズーカのことをそれほど理解しているわけではないが、10年前のリボーンがやってきたということは、この時代にいたリボーンは10年前の世界に行った筈である。
ただ、10年前のリボーンから聞くに、正確には9年10か月しか経っていなかったりと錯誤があったようだが。
ここまで来て、獄寺は一つの仮説を思い浮かべる。
何者による力が作用しているか定かではないが、ここは10年バズーカを使われた者が行きつく場所ではないかと。
何より少し前に自分の目の前に現れた10年前の沢田綱吉の様子を思い起こしても、そう考えた方が色々と矛盾も解決できるものだった。
そう考えても、現状何が出来るというわけではないのだが。
「そうだ!」
はっと思いだして、獄寺はリボーンの側を軽く離れた。
リボーンや自身と同じように10年バズーカを使われた者がこの場に居るとすれば、もしかしたら…があるから、フィルター越しのようなわからない世界で獄寺は空を泳ぐように進んだ。
「っ、、、10代目………」
とても綺麗な姿が、そこにあった。
獄寺が最も望む方がここにはいらっしゃったのだ。
瞳を閉じて全く身動きはしないが、獄寺にはきちんとわかる。
ここにある彼こそが、ボンゴレ10代目…沢田綱吉だということを。
今の獄寺に肉体という感覚はないのだから、すっと触れようと思ってもそれは無理なことであった。
それでも、彼の姿が見えるということだけでも、救われそうだった。
思い起こすのは、かの方を収めた棺桶の事。
ミルフィオーレの手にかかり亡くなった10代目は完全に敵の手に落ち、皮肉にも日本式でボンゴレ側に送り返されたのだった。
一つの箱として、帰った姿。
そこには、丁寧な骨しか入っていなかったのだ………
ボンゴレ10代目に相応しく埋葬することとなり用意された棺桶。
骨しかないとはいえ、それでも獄寺は真っ白な花を余すことなく棺の中に敷き詰めた。
ここに横たわる人はいないのだが、まるで脱け殻でもいるような錯覚を自分に与えるために。
そして、棺の中心にゆっくりと骨の入った箱を置いた。
それで、終わりだった筈なのにまたこうして幻を目にすることができて、獄寺は揺らいだ。
幻想とは言え再び合間見えるだなんて…そばにいられるだけ良かった。
すくい上げられないとはわかっている。
おそらく自分たちがここにいられるのは、僅かな間であろう。
10年前の自分と本来の通りに、入れ代わりがなされたらこれさえも終わってしまう。
出来れば、このままこの場所に居たい。
夢に浸かり続けたいという思いがあった。
願わくは、この状態が少しでも長く続きますように―――
分子になっても挨拶を 1
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