オレが次に瞼を閉じるとき、それは
永遠の眠りにつく時。
たんっと、ツナが認証パネルに右手をかざすと幾重にも重なる扉が次々と開口した。
遥か地下へと伸びる建設途中であるボンゴレ日本支部のアジトへと、足を踏み入れる。
「10代目!」
エレベーターで目的の階に降り立った瞬間、出迎えが駆け寄る。
曲者揃いの守護者の中でツナのことをこうはっきりと呼ぶ人物は1人しかいない。
それは、自身の右腕である獄寺隼人がもたらした声であった。
疲労の顔があっても、とびきり良い男というのに変わりはないのに、もったいない。
今の獄寺は少し切羽詰まった様子を見せていた。
「獄寺君。」
この時間に帰ってくると伝えていたわけではないのに、わざわざここまで来てくれたことに対して、ツナは嬉しいような仕方がないような反応をする。
獄寺に頼んでおいたミルフィオーレの動向を探るという任務。
決して落ち度があるような仕事ぶりを見せるわけではないとわかっていたが、相変わらず自分に対して過剰なまで働きすぎていて、自分を顧みていないのが彼の唯一とも言える欠点であるからだった。
「どうか、お休みになって下さい。もう3日もろくに寝ていらっしゃらないではありませんか。」
ツナに対しては珍しく声高に、獄寺は訴えた。
その細い両肩を掴むと余計にその実感が伝わる。
元々、身体の細い人ではあったが、最近はそれが非常に顕著に身体にまで出てきてしまった。
無理もない。
仲間思いのこの方の…友人どころか、知人とみなされるだけでも、ミルフィオーレの手によって次々と殺されていく状況で安易に寝ることなんて出来ないのかもしれないけど、それでも。
「それは、獄寺君もだろ。君の方が1日多いよ。4日ぐらい徹夜してるでしょ?」
忠実な右腕は止まらない。
ツナが止めなければ誰の言うことも聞かないほどで、それでも今度ばかりは休む気などないだろうが。
「オレは大丈夫です。ですが、あなたはまた執務室で仕事の続きですか……」
自分なんて使い捨てて下さって構わないのに、この方はどこまでも優しい。
今もイタリア本部との連絡の取れない激務中、被害を最小限に抑えるための指示を出し続けているのを、獄寺は知っていた。
「うん、そうなんだ。あと、もう少しだけちょっと集中したいから。」
これが終わったら休むよと、暗にツナは伝える。
「…わかりました。くれぐれもお体だけは気を付けて下さいね。」
名残惜しかったが、獄寺はツナを離した。
心配してくれてありがとうと言ったツナは、自身の執務室へと向かうべく消えていく。
最近、一人で抱え込んでいるような様子が多いツナのことを獄寺は非常に心配していたが、それを異様に表面化に出すことは許されないことだった。
次期ボンゴレ10代目として、彼にはやるべきことがあるのだろうとわかっていたのに、なぜか…獄寺の心に潜む闇は拭えないでいた。
執務室に入った途端、獄寺の前ではなんとか平静を装っていたが、たんっと駆けるようにツナは机に向かった。
深い椅子を引くと急いで座り、目の前のコンピューターを立ち上げる。
幾重ものセキュリティを生体認証をかけて解くと、最後のゲートが開く。
ぼうっと浮かぶ立体中継のように、ツナ以外に2人の男の残像が画面に映る。
あまり大々的には出来ないのでエコノミーな画質は小さく表示されていた。
「遅いよ。」
開口一番の右隣の男の声はこれだった。
黒地基調の着物を着て正座をしていると思われているのに、不機嫌に腕を組んだのは、風紀財団トップの雲雀恭弥であった。
外面では、ボンゴレファミリー雲の守護者と評されていることもあるが、本人はそれを良く肯定はしない。
また、ツナも自身の守護者として手足となって扱える相手ではないとわかっているので、骸と並び普段は接触がある様子を外には見せないでいた。
「すみません。」
今回は時間に少し遅刻してしまったツナが全面的に悪いこととなるので深々と謝った。
雲雀に怒られるとわかっていても、獄寺とのあの僅かな時間を大切にしたかったのはエゴだったから。
「まあ、時間もないことですし、話を進めましょう。」
一度不機嫌になった雲雀を簡単に元に戻すのは大変だと肌に感じながら、左隣の男は声を出した。
真っ白な服、肩に黒いマントを羽織った眼鏡をかけて立っているのは、ミルフィオーレファミリーボスの百蘭腹心の部下である入江正一であった。
全く立場の違う三者三様の三人が集まった。
全ては一つの目的のために、白蘭を倒すため。
始まりは、ツナの元に届いた1通の暗号通信であった。
その相手がボンゴレリングを破棄した原因とも言えるミルフィオーレファミリーの若き幹部である入江正一だと表示されていた時、さすがのツナも直ぐには信じられなくあった。
彼は監視下におかれていたが、その中でも何度か信頼のおけるやりとりをし、事態を把握した中で、どうしてもツナ一人だけで対処できるようなレベルではないと判断したとき、次に白羽の矢が立ったのは独自の立場を保っていた雲雀恭弥だった。
何度も重ねた三者会議であったが、これが最後になる。
「まあ、いいよ。沢田綱吉。君が死ななきゃ始まらないんだから。」
最後だから許してあげると、冗談半分な様子を雲雀は見せた。
「わかっています。オレはきちんと死にますから。」
改めての決心と覚悟をツナは示した。
雲雀の言うように、今まで立てた計画の始まりは自身の死がなければ成り立たないのだ。
酷いことを雲雀は言っているようにも聞こえるが、この彼の冷静な性格がなければ計画は進みはしない。
甘い自分や入江ではいつかは綻びが出てしまうだろう。
だからこそ、雲雀という人物は絶対に必要であった。
「ミルフィオーレ側の準備は整っています。あとは、ボンゴレ10代目が1人でこちらに赴いて頂ければ、全てが滞りなく進みます。」
全ての手筈は整ったと、入江も伝えた。
ツナが死ぬことを良しとは出来る性格ではないのだが、こればかりは仕方ないので機械的に計画を告げる。
「僕の並盛にメローネ基地なんて鬱陶しいものをわざわざ置いたんだから、早くすませてよね。」
微妙にその点に関しては未だに腑に落ちていない部分があるので雲雀は強調した。
そもそも雲雀の許可なしに勝手に、並盛町にミルフィオーレの拠点を置くことなどそもそも出来なかったのだから。
「わかっています。こちらも気をつけてはいますが、もしかしたら白蘭サンは気が付いているかもしれません。計画は早く進めますよ。」
いちばん身近にいるからこそ、白蘭の末恐ろしさを入江は知っていたので口に出す。
トゥリニセッテポリシー、なんて酷い。
その彼を倒すために画策してきたが、どこまで通用するかはまだわからない。
「やれるだけのことはやりましょう。オレは仲間を、そして過去の自分を信じていますから。そして、みんなをよろしくお願いします。」
その場に自分はいないから託すことしか出来ない、信じることしかできないけど、ツナは力強く言い雲雀と入江に頭を下げた。
「言っておくけど、弱くて使えなかったら咬み殺すからね。」
あくまで容赦はしないと雲雀は告げたので、ツナは肯定の頷きをかけたのだった。
「では、計画の最終確認に映ります。お二人とも、中央の画面を見て下さい。」
入江が利き手を軽く動かすと、三人の中心部に別画面が浮かび上がる。
立体的なプレビューにはいくつかの文字の羅列がある。
「これは、10年バズーカによるタイムトラベルのスケジュール表です。
まず、晴れのおしゃぶりを持つアルコバレーノのリボーンをこちらに呼び寄せます。彼はノントゥリニセッテによってボンゴレ日本基地から外へは出られない身体ですが、トゥリニセッテに対して誰よりも理解があります。10年前のボンゴレ10代目たちや他の守護者をスムーズに導く重要な人物となるでしょうから、一番最初です。
アルコバレーノリボーンが事態の把握を済ませた次は、ボンゴレ10代目沢田綱吉をこちらに呼び寄せます。彼には1日でも早く強くなってもらわなければ行けません。また今後に入れ替わる守護者たちを統括する役目も担ってもらいます。」
細かい時間の列記は避けたが、ここまで読み上げると入江は眼鏡を直してから一つ息をついた。
「そして、次にはボンゴレ10代目沢田綱吉の身辺を守る、守護者を呼び寄せます。守護者全員をいっぺんに呼び寄せると混乱が起こるのでまずは一人ずつ入り替えるのですが…」
「まず最初は、嵐の守護者獄寺隼人だね。」
ここで今まで黙って聞いていた雲雀が口を挟んだ。
意味深に深くその名をしゃべる。
「そういうことになっています。僕には各守護者の詳しい人物像はわからないのですが、何か問題がありますか?」
上記の理由のとおり、順次入り替わりをすませて守護者にも強くなってもらえれば、入江からすれば良いことであったので、雲雀の言葉は随分とひっかかった。
最悪の事態を考えてボンゴレリング全てが集まらないように、一人の守護者だけは入り替わりを遅らせる予定ではあったが、誰というのは随分と前に決まったことであった。
「別に…ただ、何で彼を選んだのかって思ってね。獄寺隼人の性格は良く知っているだろう、沢田綱吉?僕としては山本武の方がよっぽど適任だと思うんだけど、それ以上に理由があるのかな。」
雲雀が強く突っ込むのも無理もない面があった。
確かに10年前の山本はマフィアに対して理解がなさすぎたが護衛をするなら、彼のような温和な性格の方が向いているしパニックも起こしにくい。
それはツナ自身もわかっているだろうに、それでも彼が推したのは獄寺の方であった。
「…オレが死んだとなれば、獄寺君は10年前のオレたちを冷静に導くような有能な人材になれるとは思えません。だったらいち早く入れ替わりをした方がいいと判断したんです。」
それにゴールである入江を目指させるためには彼の強い思いも必要であった。
少し視線をずらしながらツナはそう言った。
「ふうん。まあ、そういうことにしておいてあげるよ。それが君の最後の我が侭だしね。」
雲雀は、それ以上は追及をしなかった。
ツナも、それ以上は答えをしなかった。
会議が終わり画面が途絶え、ツナはミルフィオーレが指定した場所へと赴く準備をする。
曖昧ではなく確実に、明日オレは死ぬだろう。
だからこそ、死後の世界のような入江の作った分子となった空間で一番に会えるとしたら、唯一選ぶ人物が居た。
次に出会う時は死んでいるけど
大丈夫、彼は…彼だけは生きるから。
分子になっても挨拶を 2
back
menu
next