だが、もう一度だけG文字での手紙を与えられる機会がやってきた。
リボーンが居なくなった。
いや、居なくなったという表現は少々違うのかもしれない。
正確にはランボの悪戯によって放たれた10年バズーカを食らい、未来へ行ったきり帰ってこなかったのだ。
未来のリボーンとの入れ替わりさえも成されないので、獄寺は嫌な予想に行きついたが、それを直接的に周囲に漏らすことはしなかった。
そしてツナもあっけなく10年バズーカによって飛ばされ、獄寺自身も未来にやってきたのだった。
落ちた未来は想像を絶するものであった。
10年後のツナが棺桶にいという衝撃は計り知れないものであったが、そこで立ち止まるように倒れているわけにもいかない。
この場所がどこかもわからない今、やることは多いのだと気を取り直す。
「これ、10年後のオレがおいてったんスよね。」
自分の側にあった薄くて軽いアタッシュケースを拾い上げて、獄寺は言った。
見たところ特殊な細工などはしていない普通に思える。
「う……うん……」
「どれ。」
戸惑いながらもツナがそう答えるので、獄寺はパカッと無造作にケースを開いた。
意外と簡単に開くものだと感心さえする。
「ちょっ、獄寺君。勝手に開けちゃあ…」
ばらばらと中から出てくる小物の数々を見て、驚きながらツナは咎める。
多分、自分ならこんなことはしない。
「かまいませんよ。どーせ、オレのなんスから。」
10年バズーカによって10年後の世界に飛ばされたとき、未来の獄寺の部屋を漁るのはいつものことであったから、今更何か思うなんてことは全くない。
一体何が入っているのだろうかという興味の方が先に沸いた。
「なんだ…?このコケむした……箱? ってか10年経っても紙の手紙かよ…」
草むらに落ちたもので最初に目を惹いたのは見慣れない奇妙なその箱であったが、やはり手紙の方に気が行く。
待ち構えていたのは一通の白い手紙で、いつものように馴れた手つきで獄寺はかさりと開いた。
それは、毎回獄寺宛となっている手紙とよく酷似していたのだ。
思った通り、3枚の白い便せんが中から姿を現す。
「何……これ…?絵みたいだけど…」
気になって覗きこんできたツナが、記号のようなものを見て、疑問の声を出す。
あの10年後の獄寺が持っていたにしては随分と奇怪な内容に思えたから。
「これは、G文字だ!」
「G文字?」
反動的に聞こえてきた獄寺の声をツナはそのままオウム返しする。
何だか、聞いたことないことを言われたぞ。
「ゴクデラ文字といって中一の時、授業中にオレが考え出した暗号です。」
まだ10代目にご説明したことはなかったと思いだし、獄寺は説明する。
しかしG文字の手紙をまた目にするだなんて…
あの手紙には、最後まで同じようなことばかり書いてあったが、これには。
最後とあの時に書いた未来の自分は、なぜこんな状態で手紙を書いたのか真意がわからなかった。
そもそも彼は、過去に対する全ての行動や記憶を持っている筈なのに、今更作意が起こるとは思ってもみなかった。
「シュ…ゴ…シャ…ハ……シュウ…ゴウ……………」
軽く読み解く文面には、初めての具体的な内容であった。
噛みしめるように獄寺は目を通した。
10代目は確かに素晴らしいし、言われなくてもわかってる!
と、かつての獄寺は手紙に対して軽い怒りを覚えるばかりであったが…
しつこいぐらいに、10代目をお守りするようにと書かれたG文字の手紙の意味を本当に知ることになったのは、飛ばされたこの未来であった。
生命以上の危険を孕んだ未来で、過去へ戻るためにリング・匣を持ち奔走する結果となる。
ミルフィオーレ日本支部へと侵入をし、γと再戦を果たし、山本や雲雀と合流をし、そして…
獄寺は、酷い悪夢を見た。
よりによって守るべき人である10代目の首を酷く締めるという、夢を。
それは白昼夢のようにとてもリアルであった。
本当に目の前に10代目がいて苦しめているように、指に食い込む白い首の感触と息苦しくせき込む声。
こんなこと、したくないというのに。
うなされながらようやく獄寺は目を覚ました。
ここは、どこだ?まるで理解できない場所だ。
倒れた身体を起こすと、周囲には山本・雲雀・クローム・了平・ランボを始めとする守護者や草壁・イーピン・ラルなどがひと固まりの空間に居た。
そして、ガラスの向こうにはツナとリボーンさんが居て、憎き入江正一が対峙していたのだった。
「抵抗しようとしてもムダさ。お前達のリングと匣兵器は…全て没収した。」
攻撃をしかけようと匣に手をやったが、そこに本来あるものはなかった。
身代わりのように入江正一からもたらされた言葉に比例するように、左手の平に余すことなく光るのは、各々のボンゴレリングなどだった。
「なんてことだ………これでは…!」
最悪の状況に草壁が叫ぶ。
入れ替わりが起きていない了平の晴れのボンゴレリングがないとはいえ、このままではツナの持つ大空のリングもいずれ奪われてしまう。
「…ぐっ…沢田。かまわん!貴様の手で装置を破壊しろ!!」
示唆するようにラル・ミルチが怒声を上げた。
自分たちがこうやって掴まっている今、動けるのはツナだけであった。
あの白い装置を壊せば過去に戻れるというならば、それで…少なくとも過去から来た彼らは助かるという判断だ。
「そうです、10代目。丸い装置を!そいつをぶっ壊せば過去に帰れるかもしれない!!」
詳しいことはわからないが、ツナが夢で見たという丸い装置が今目の前にあるのだ。
それさえなんとかすれば、本来の目的である過去への道が開かれるかもしれないと思い、続いて獄寺も声を荒げる。
「……ダメ…」
そんな中、一人だけクロームが首を振りながら呟く。
具体的に何かはわからないけど、それをしてはいけないような気がしたのだ。
「てめー!この状況で命がおしくなったのか?」
「ちがう…でも…」
異を唱えるクロームを獄寺はジロリと睨んだ。
「全くお前達の無知ぶりにはあきれるばかりだ。この装置を破壊すれば困るのはお前達だぞ。」
やれやれと言うように、入江は言葉を出す。
生きていることを示すようにポットに捕らえた人質たちを起こしたが、まるで状況を理解していない。
早まった真似をすれば、全ての計画が泡になってしまうだろう。
「何?」
入江の言葉がまるで言い訳にも聞こえなくて、ツナは尋ねる。
その瞬間にプシュッと開かれるのは、今まで閉じていた大型の白い装置。
入江の指示によって開口された、その先にいたのは………
「この装置に入っているのは、10年バズーカでお前達と入れ替わりで消えた…この時代のお前達だ。」
白く丸い空間に、規則正しく円状に並ぶ、10人の男女。
遠くて良く見えない人物もいるが、10年後の山本や雲雀、ランボ・イーピン・ハルなどとは実際に獄寺は遭遇していた。
残る、10代目・リボーンさん・クローム髑髏・笹川京子、そして…
まさか、あれが10年後のオレ?
目を見張るように、獄寺の視線の先に居る人物。
宙に浮かぶ、スーツ姿は皆と同じであったが、あの銀髪と閉じた瞳が開かれれば見れると思われる翡翠。
初めて見たが、間違いない。
まさか見舞えるとは思わなかった、未来の自分がそこには居たのだった。
オレは今まで自分のことしか見えなかったし、見えていなかった。
10年後の自分はたしかに自分だが、自分という獄寺隼人とは全く違う人間なんだ。
仕方のない部分もあるが、誤解していたのだ。
てめえに言われなくてもわかっていると何もかもを邪険にしていた。
未来の自分が、具体的なことなんて何も書いていないに等しかったのは、全てをわかっていたからだったのだ。
今まで10年バズーカを繰り返し使わされる中で、不便なことは多いが一番獄寺が気になったのは、未来の自分姿を見ることが出来ないということだった。
なぜか見たいと思った。わからない感情。
そして、もっと知りたいと思ったら…ぶつりっと何かが途切れて、最後だと言われて。
10代目を庇って10年バズーカに当たった時、あれはわざと避けなかった。
(ああ、オレは彼が好きだったんだ………)
狂おしいほど痛い胸がしめつけられて、自然に高鳴る。
改めて自覚するこの感情が、獄寺の中に勝手にどんどんと軋んでくる。
会えて嬉しいという芽生えが、すんなりと溶け込んでいった。
彼のようになりたいと思う憧れをも超えるものがある。
未来の自分は、オレのことなんて気にせず、10代目の心配しか見ていない。
ありとあらゆる行動からそれを読み取れた。
彼のようになりたいと思った。
だから、せめて彼と同じ人物として恥じないように、生きていこう。
これがオレの唯一の生きる意味となっていたのかもしれなくても…
背徳の premier amour 2
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