また、いきなり突然な投下を受ける。
「おい、新しい修行を始めるぞ。」
身長的問題で必ずしも下方から言われているはずなのに、あくまで上から目線の物言いを受けているような気がするのは、その言い方をしたのがリボーンだからだった。
数ヶ月前も全く同じことを言われた気がしたので、まるで時間が巻き戻ったかのような錯覚をも受ける。
まだ赤ん坊なのに、ボケたのか?と一瞬ツナは思うが、そんなことを言ったら十秒後の命の保証はない。
というか、現在進行形で修行ですけど。
「ど、どうしたんだよ。リボーン。」
突然戸惑いを素直にツナは口に出した。
さて、現在の状況は、ツナの自室。
ベッドの隣に簡易な木製机をおいて、座布団の上にちょこんと乗り、机に向かっている。
対面に座るのは、自称ツナの右腕である獄寺隼人。
ツナの前なのでいつもどおり限定的な正座をきちんとし、背筋も伸ばしている。
机の上に広がるのは参考書と辞書とノートと筆記用具で、典型的に只今勉強中という様子が伺える仕様であった。
こんな状態で言われた新しい修行という言葉に反論はある。
数ヶ月前に言われていたイタリア語に関する修行を、シャーペンを持ったまま今正しくやっているのだから。
いくら先ほどリボーンが家に帰ってきたばかりとはいえ、それは知っているだろう。
夕方、学校から帰ってきて、ちょうど山本が部活などでいなくて宿題の量も少ないときは獄寺と二人でイタリア語の勉強をするのが恒例となっていたのだから。
今更、何を言っているんだろうという状況という感じを受るけと、獄寺もそれを表情に出しているのが、何となくわかった。
だだ、彼の性格だとリボーンのやることに対して、とやかく文句は言わないので今は黙っている。
「どうしたも、こうしたも、ねぇ。今の修行はとりあえず終了だ。次に入るぞ。」
当たり前だろうとリボーンは顔をしめした。
腕を組んでえらそうなのは彼だから許される仕草で、ひとつ帽子をくいっと直すと上に乗ったレオンがくるりと体制を変えるのが見える。
「次ですか…」
ここでやっと獄寺も口を挟む。
次があっただなんて、知らなかった。聞いてなかったのだ。
これが終わることをツナは内心で望んでいたようだが、獄寺自身は少し寂しい。
ツナがここまで必要として頼ってくれたことは今までなかったのだから。
リボーンもツナの努力を認めてくれたのは嬉しかったけど、それも終わりで、もう自分は必要ないのかと。
どこまでもお守りする所存ではあったけど、次の修行を頑張って頂きたいと願うだけであった。
「何、落胆してんだ。次の修行も、ツナだけじゃなくて、獄寺。てめーも協力するんだぞ。」
ちらっと獄寺の方を見てから、リボーンはあっさりと言いのけた。
獄寺の性格はわかりやすく、直ぐに心情が顔に出るのだ。
特にツナに関することだとそれは過敏に現れる。
「また、獄寺君を巻き込むの!?」
再び、無茶苦茶なことを、迷惑を考えると、ツナの頭は痛い。
リボーン相手にしていると危惧が耐えないのが事実だが、心休まる日はいつやってくるだろうか。
いや、この家庭教師が居なくなるまでそれはない。
もしかしたら、ボンゴレのボスになるまで側についているとか言われたら、安静な日々は一生叶わないのだ。
我慢しろ、自分。
おかげで、少しはイタリア語が理解できるようになってきた矢先に、これかと結局、気苦労絶えない。
「そうだ。今度は、ツナが獄寺相手の場合はイタリア語しか話さない修行だ。」
そう簡単リボーンは、次を示す。
ようやく慣れて落ち着いて来たというのにまた燃料が投下されたのだった。
「ということは、今度は今までの逆ってこと?」
ちょっと理解しがたくてツナは首を傾げながらも、確認の言葉を出す。
今までは獄寺がツナ相手だとイタリア語オンリーだった。その逆…
それにしても、また獄寺君限定ということに、突っ込む気力も萎えるというもんだ。
下手に他の人に迷惑かけるのよりもいいかもしれないが、それでも。
のん気にツナは聞いてみたが、本当は深刻かもしれない。
イタリア語の単語は段々わかってきたが、発音とかしゃべるという行為自体はあんまり進化していない。
リボーンがくれた辞書のおかげでリーディング能力、獄寺のイタリア語のおかげでヒヤリング能力とリスニング能力、このあたりは何となく察しは付いてきたが、肝心要のスピーキング能力は未知数。
とんでもないことを言われている自覚はまだツナには薄かった。
「もうこの瞬間から始まってるぞ。期限は、オレが良いと言うまでだ。安心しろ。これで最後だからしっかりガンバレ。」
他人事だからって簡単に言ってくれる…と、ツナは心の中だけで思った。
オレは忙しい要件があるとさっさとそれだけを言うと退室してしまうリボーンの背中を漠然と見ているだけであった。
その後、思わずツナと獄寺は顔を見合した。
さあ、何から話そうか。
言葉少ないのは仕方ないが、自分相手だとツナの声が殆ど聞こえない寂しさを獄寺は味わうことになる。
でもこれも修行の一環で、曖昧にすると怒られるのは獄寺だけではなくツナもなのだから、耐え忍んだ。
かなり片言で、単語の詰め合わせみたいなものだけど、ツナの必死に頑張っている様子を見ていると微笑ましい。
ある意味、これはこれで貴重な姿を自分にだけ見せてくれて獄寺は嬉しかった。
まれに緩む獄寺の頬を見て、折角の良い顔が台無しだなとツナは思ったが、それを指摘する単語が簡単には見つからないので、押し黙る。
「掃除に行きましょう、10代目。」
何でもかんでも良い声で言う獄寺は、終業のチャイムが鳴ると、ツナの机にかけよって一番にそう言った。
「si.」
顔をあげて、ツナは了承を示す。
イエスとノーぐらいは覚えたし、言えるぞ流石に。
並盛中では、放課後の授業が終わってからまとめて生徒全員で掃除をする。
中には掃除を生徒がしない学校も日本でもあるそうで、それはちょっと羨ましい。
馬鹿騒ぎを半分しながらの掃除ではあるが、部活に参加して居なくとも早く帰りたいなという気持ちはあるのだから。
今週のツナたちが担当する掃除場所は、二階の階段という無難なところなので、教室よりちょっと離れる事になる。
班が一緒なので必然的に獄寺とも同じ掃除場所で、二人並んでそこまで向かうが、会話はほとんど出来ない。
まだ慣れないのは仕方ないのか…この修行は始まったばかりなのだ。
辿りつくと、廊下脇に設置された掃除用具入れから獄寺はモップを二つ取り出して持って来て、手早く渡された。
「grazie.」
ありがとう…と、ツナは感謝の言葉を述べる。
ああ、やっぱりいつも同じようなことしか言えないなと思い、少しツナは顔を見下げた。
こんな言葉では尚更で意志伝達は微妙、かなり微妙だ。
これから先は長く、またこんな日々が続くのだ。
モップを受け取ってちょっと先をトントン進んだ後、階段の上に登ったまま立ち止まったツナの様子の違いを、なんとなく獄寺は察して、根気よく待ってくれた。
背伸びをしてもいつもはちょっと届かない位置。
あのさ、獄寺君。
どうして、君はそんなに必死に、オレに付き合ってくれるの?
何ヶ月かかるか、わからないんだよ。
本当は獄寺相手に色々と聞きたい。
なんで、もっといっぱい話しておかなかったんだろうと後悔だ。
いざこういう状況に追い込まれてからやっと気が付くだなんて、もどかしい。
ありがとうでは言い表せない言葉があるんだ。
でもわからない。
たとえ勉強したとしても、それが正しいのかわからない感情が胸に宿る。
いつ本当にきちんと言えるかなんて、わからない。
だから今言いたいんだ。
この感情の名前を教えて?
「獄寺君。あの…」
掃除中の階段都合のいいことに掃除中なので誰もこないことをいいことに、くるりと降り返ってちょっと勇気を出してみる。
ツナがイタリア語を使わなかったことに、獄寺はちょっとびっくりしているようだった。
でも、ツナが真剣なのは伝わったから、それを咎めたりはしない。
「ど、どうしたんですか。」
ちょっと焦りながら、獄寺はツナを相手にする。
一段分だけ階段の上に立つツナと獄寺は珍しく目線が一緒なので、余計に緊張した。
だからと言ってこの方と対等なんかではないけど、思わず錯覚してしまう。
「オレさ…」
夕焼けがちょっと窓から赤く差し込んで、ツナが次の言葉を告げようとした瞬間だった。
シュンッ!
瞬間的にやってきて、二人の間をかすめるものがある。
はらりと前髪の何本かが切り取られて浮遊したのを見て、ツナはその正体を知る。
小さな、鉛玉―――
危なかった。
頑張る超直感が少し顔を動かした結果だが、あと少し前に身を乗り出してれば、確実にアウトだったろうと、凄い冷や汗が出てきてくれる。
ギギッと獄寺が首を動かすと、右手側の大ぶりの窓にひび割れた穴に、対面の白い壁には銃弾の痕がくっきりと残っていた。
「これは、リボーンさん………ですね。」
身も凍るほど冷たく、獄寺はぼそりと呟いた。
横にはチェコ製Cz75…リボーン愛銃の弾丸がのめり込んでいる。
外から狙えるような狙撃銃じゃないはずなのだが、一体どうやってと聞くのは野暮であろう。
第一、肝心のリボーンの姿は全く見えなく、気配さえも掴めないのだ。
並盛中を勝手に改造しているらしく、ありきたりな消火設備からコーヒーマシン片手に登場とかしてくれたので、実際はどこに潜んでいるかわからない。
「Io sono spiacente.」
ごめん…と、ここは素直にイタリア語でツナは獄寺に謝った。
また、巻き込んでしまった。
おそらく、というか100パーセント、これは先ほどツナが獄寺相手にイタリア語を使わなかったことが原因だろう。
前回の修行では、なんだかんだ言っても獄寺は絶対にツナに日本語を使わなかったから、破ったのはこれが初めてで、甘えは許されないのだ。
ちゃんと監視していたんだな、リボーン。
多分、二度はないという警告で、次はマジで殺る気だ。
先が長いことに、ツナは気が遠くなった。
絶対忠誠 7
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