自分の誕生日を指折りで数える日が来るとはあまり思ってもみなかった。
幼少の頃からダメツナと呼ばれ続けてきたツナに特定の友達はおらず、また父親も相当留守がちだったので誕生日パーティーをまともに祝ってくれるのは母親だけだったからだ。
しかし、リボーンが来てくれたおかけで、自分の周りは随分とにぎやかになったことだけは感謝している。
今年の誕生日も、一日違いのリボーンの誕生日と一緒に祝うということになり、みんなが準備をしてくれていた。
今の世の中では、真ん中バースデーというのが流行っているらしいが、あいにく一日違いでは真ん中を取るのは難しいので、去年と同じくリボーンの誕生日ではある10月13日にパーティーを開催することになった。
「じゃあ、また明日な。」
すっかり洗い終わった寿司詰め箱を風呂敷に持った山本はいつものように気さくにそう言って、沢田家を後にした。
女性陣はもう遅いからということでとっくの前に帰っているので彼が最後の帰り人となる。
「うん、今日はありがとう。おやすみ。」
見送りに出たツナは、山本の姿が闇の夜道に消えゆくまで玄関先で手を振って送った。
さて、あと少し後片付けをして寝たらもうすぐ明日だと、少し意識して再び玄関に戻った。
「随分と楽しそうだな。」
頬が少し緩んでいるツナを見て、リボーンは横を向きながら少しため息をついて言った。
いくらリボーンといえど、誕生日祝いをされて嬉しくないはずがないので、先ほど終わったパーティーに喜びを感じていた。
一緒に祝られたツナとて喜んでいるとはわかっていたが、それ以上に何か誕生日という日を喜んでいたように見受けられた。
「そ、そう?」
図星を指されてドキリとする。
知っているだろうけど、明日獄寺君に会えるのが楽しみだなーと思っていることを、リボーンお得意の読心術から読まれたら、さすがに気恥ずかしい。
「まあ、いいけどな。オレは先に寝るぞ。」
今年、ボンゴレアンパーティーは開催されなかったが、人が集まるとさすがに時間は瞬く間に過ぎていく。
奈々の食事の片付けを手伝っていたりしたせいもあり、時間はもうすぐ夜の11時だ。
赤ん坊である自分は早く寝るとでも言わんばかりに、リボーンはリビングから出て行った。
「そんなに、赤いかなぁ。」
未成年なので酒は飲んでいないが、もしかしたら空気に飲まれたのかもしれない。
うーんと少し考えた後に、片付けとして台所で最後の大皿を食器棚にしまってから、ツナは中庭に出た。
少し頭を冷やすために夜風に当たってくるつもりで出たのだが、10月も中旬となると肌寒い。
幾度か風が舞い込み、ツナの頬を直接的に冷やした。
「………10代目ですか?」
聞きなれすぎた声が、中庭の玄関近くから響いた。
こうやって自分を呼ぶのは一人しかいなくて、でも信じられないから驚いてツナは振り向いた。
そして、次の瞬間には目を見開いた。
「えー嘘!獄寺君なの?」
こんなに驚いた声を出したのはかなり久しぶりだろう。
でも、それに値する姿が目の前にあったのだから、仕方ない。
やっぱりそこにいたのは獄寺であったが、最後に見た半年前の様子とは様変わりしていた。
「はい。だだいま戻りました。」
夜遅くにお邪魔して申し訳ないという恐縮をしながら、獄寺は言う。
「す、すっかり、見違えちゃったね。オレなんかチビのままだよ。」
月夜越しなのではっきりと姿は見えないが、相当身長が伸びているのは分かる。
自分も同い年で成長期な筈だが全然伸びていないせいかもしれないが、身長差が格段についてしまった。
なじみの並盛中の制服を着ているのだが着実に小さいので、これは作りなおししなければ不味いだろうなと、人事ながらツナは思った。
それと前々から電話越しで思っていたけど、低い声。
イタリアにずっと戻っていたせいで日本語の発音が微妙なのかなと感じたが、ツナと話している分だとそれほど変な様子はなかった。
男の人相手にこういうのはどうかとも思ったが、とても綺麗だと思うしかなかった。
「いろいろとご心配をおかけしました。」
獄寺はそのまま流れるように片膝をついて、開いていたツナの右手を取り、手のひらに軽く親愛の口付けを施した。
その仕草のあまりの優雅さに、ツナは赤面した。
イタリアは愛の国でもあると聞いたことはあったが、あまりに自然すぎてされた方が困惑するぐらいだ。
「あれ…獄寺君、ピアスなんてしてたの?」
獄寺が跪いた拍子にいつもは隠されている左耳が風に流されてほんのり露出した。
ピアス特有の装飾はなにもしていないが、もう随分と塞がっている微かな穴の後が残る。
暗くてよくわからないし、少ししか見えなかったが、これはピアスの痕なんじゃないかな?とツナは思った。
それほど注意深く観察したことはなかったが、ネックレスや指輪はたくさんしていてもツナの知っている獄寺はピアスをしていなかったような気がして、思わず気になって聞いてみた。
「………ええ。少しだけしていました。」
珍しく目ざとく言われてしまったのでごまかすこともできず、獄寺は不明瞭に言葉を濁した。
同時に左耳をはっと抑えて、少し気まずい雰囲気が流れる。
「あ、帰国は明日かと思ってたよ。」
触れられたくない話題だったようでツナはわざと話題を変えた。
帰国に関しては、はっきりとした時間は聞いていなかったが、元々ツナの誕生日に間に合うようにと言ってくれたのが嬉しかったので喜びも増したことだったので、元々言うつもりであった。
「10代目に早くお会いしたくて、予定より一便早い飛行機で来てしまいました。もうすぐ日付が変わりますよ。出来るなら、一番に祝いの言葉を述べさせて下さい。」
軽く微笑みながら愛の言葉をささやくようにしゃべった。
すっかりイタリア男になっている。
やっぱり誕生日に間に合うように帰ってきてくれたのだな、律儀だとツナは感じた。
「そうだ!獄寺君も9月9日が誕生日だったよね?プレゼント、用意してあるんだよ。」
「あ、ありがとうございます。オレも、10代目へのプレゼント、持ってきてます。」
この人は本当に自分を喜ばせることしかしない。
思わぬサプライズに心を躍らせながら、獄寺は応えた。
「そうなんだ。ありがとね。獄寺君は、住所は教えてくれないから渡すの遅くなっちゃったよ。」
そう不満は口にするが、互いにプレゼントを持ち合っているので、プレゼント交換みたいになってしまうことに、楽しさを感じていた。
「すみません。あっちでも引っ越ししがちだったので。」
日本にいた時もマンションをよく移動していたから、ツナはそのことに疑問を持たなかった。
「じゃあ、ちょっとプレゼント持ってくるから、待ってて。寒いでしょ?家に入ってもいいからさ。」
それだけ急ぎで言うと、ツナはくるりと後ろを向いて慌てて家に入って行った。
続いて、バタバタと2階へ駆け上がる足音がしたので、獄寺は幸せをかみしめるように聞いていた。
それを突き破る声がかかるまでは。
「おい。」
ドスの聞かせた声が背後からかかる。
「リボーンさん。半年ぶりです。色々とご迷惑をおかけしました。」
深々と謝りながら返事をする。
半年前、獄寺はリボーンにさえイタリアへ行く理由を詳しくは述べなかったので、相当怒られるだろうという覚悟はあった。
「ああ、本当に迷惑だったな。てめーの行動は……
半年ぶり?馬鹿言ってんじゃねーよ。もっと全然前に日本に戻って来てたんだろ?」
全てを見透かすようにリボーンは言った。
この男…獄寺の気配は巧妙に隠されていたが、日本にいて何度も感じた。
確かに一度はイタリアに渡ったようだが、直ぐに戻ってきて遠まわしにツナの右腕として守るということは成していたのだった。
「はい…」
この人相手に隠し通せるようなことではないので、獄寺は正直に答えた。
そしてどこまで本当のことを話すべきかと、そちらに気を寄せる。
「返答次第では引き金をひかせてもらう。
てめーは、オレやツナが知っている獄寺じゃねーな?」
すっと瞬く間に取り出されたリボーンの拳銃が獄寺に突き付けられる。
世界最強の殺し屋の早撃ちを食らったら、いくら今の獄寺でもひとたまりもない。
「さすが、あなたは騙せませんね。そうです。オレは…あなた方から見ると10年後の獄寺隼人です。」
やはり気が付かれていたかと、観念した。
半年前、イタリアへ行くと電話した獄寺は、既に10年後と入れ替わっていたのだ。
そして半年…ずっとこの世界に居続けている。
「ランボの10年バズーカがあれ以来壊れたままだったからな。気になってボヴィーノの連絡を入れたら、てめーが何かしたな?」
確かに最初は10年バズーカの些細な故障から始まった連鎖だったのかもしれない。
しかし、ただの事故を決定的に変えたのは人為的な力が作用していた。
それが癪に障ったので、機嫌悪くリボーンは言う。
「オレは過去も未来も変えたいんです。そのためだったら、何だってします。」
もう、あの場面を繰りかえしたりはしないと、獄寺は誓った。
さらさらと出てくる嘘が段々と重くなりいつか潰れるかも知れない。
10年前の自分を見捨てようが、やるべきことがあるのだ。
成り代わるぐらい、簡単にやってやる。
「そこまで言うってことは、ツナ絡みのことか…」
どこまでも忠実な右腕として彼が未来にもあり続けることは、半年間の行動でリボーンが一番よく知っていた。
そう、10年後のツナは存在しない。だから、変えてやる。
「…10代目にオレのことを言いますか?」
「さあな、おまえの行動しだいだ。」
最愛の人がいない未来に用はない。
過去に居続ける男が、ただ一人ここに居た。
永遠の過去にすがる男 3
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